横岳とは
横岳は赤岳と硫黄岳の間にあり、ギザギザと小ピークが連続し、その最高峰が無名峰の標高2,829mで赤岳に次ぐ高さです。
奥ノ院には「2,829m横岳」と記された表札がありますが、横岳の最高点ではなく2,829mの計測点は無名峰にあります。
横岳は稜線に連なる岩峰群の総称で、赤岳側から順に日ノ岳、鉾岳(ほこたけ)、石尊峰(せきそんほう)、三叉峰(さんじゃほう)、無名峰、奥ノ院と並び、硫黄岳に至ります。
八ヶ岳を訪れたら、赤岳とともに欠かせない山の一つと言えます。
赤岳鉱泉や行者小屋辺りから見上げると、横岳に連なるように鎮座し、お坊様が拝んでいる様に見える大同心、小同心などは、ザイルなどの登攀用具を使ったロッククライミング・アイスクライミングの対象として人気のバリエーションルートになっています。
横岳のアクセスポイント
美濃戸口までは茅野駅から路線バスがあり、新宿からは直行高速バスが運行されています。 美濃戸までは一般車も入れますが、美濃戸口と美濃戸までの区間は路面が荒れていて車高の低い車や運転初心者には不向きです。
冬季、美濃戸まで車で入ることは出来ますが、凍結した急斜面のカーブがあるため4輪駆動にスタットレスタイヤ、且つチェーンを装備する事が好ましいです。
杣添尾根ルートの登山口は、マイカーかタクシーとなります。
横岳の地図
横岳の山小屋
横岳のアクセス
横岳の登山コース概要
長野県側(美濃戸口)ルート要約
美濃戸からは赤岳鉱泉に向かう柳川北沢ルート、行者小屋に向かう柳川南沢ルートがあります。また、赤岳鉱泉、行者小屋間は徒歩30分ほどの距離です。
行者小屋または赤岳鉱泉が横岳への拠点になります。行者小屋の裏手から地蔵尾根ルートで稜線の地蔵の頭に上がるか、赤岳鉱泉から硫黄岳を経由するルートがあります。
地蔵の頭から赤岳を往復しても1時間ほどですからぜひ周りたいものです。
① 横岳縦走ルート
八ヶ岳の主峰・赤岳から続く横岳の縦走路は、南北に連なる主脈に形成されたスリリングな岩峰群を何度も縫うように付いています。
適度な鎖場や梯子場のあるアップダウン、トラバースなどを繰り返す、変化に富んだ飽きさせない好ルートです。
特に日ノ岳の鎖場と奥の院近くにある「カニの横這い」「カニの縦這い」は高度感もあり緊張を強いられます。
行者小屋から地蔵尾根を登り、赤岳から連なる主稜線上にある「地蔵の頭」から横岳に向かいます。
まず、目に入るのが二十三夜峰と呼ばれる小さな岩峰で、その基部に架かる梯子を登り、右側を巻いて通過します。
さらにその先にある小さなピークは、右側を巻いて短い梯子を登り、さらに右側から巻きハイマツ帯を抜けると稜線に出ます。
稜線に出て正面の日ノ岳を望むと、山頂の右にあるルンゼ状の岩壁に鎖がかかっているのが見えています。
日ノ岳の基部で右方向に直角にトラバースしてからルンゼ状の一枚岩に取り付きます。
トラバースする所の足場はしっかりしている上、鎖が設置されています。
崖下側の傾斜は30度ほどで高度感はありませんが、積雪期には鎖が雪に埋まる為、滑落には注意が必要な場所です。
また、濃霧時には右方向へのトラバースを見落とし、ルートを見失いやすいので注意してください。
一枚岩の傾斜は40度くらいで両側に鎖が設置されてますので問題なく登れます。
ここが横岳の第一回目の核心部と言ってよい所です。
横岳は「高山植物の宝庫」と呼ばれる山で、特にこの核心部を登り切った所は横岳最大のお花畑が広がり、 開花の時期になると百花繚乱です。
核心部を通過し、日ノ岳を登り切ると再び稜線に出て、今度は茅野側をトラバースする様に進みます。 トラバースする登山道の幅は広く足場もしっかりしていて危険はありません。 茅野側がすべて見渡せ、行者小屋、赤岳鉱泉の建物が緑の中に象徴的に見えています。
トラバースを終え、「峰岳」に向かって登る所には鎖場がありますが、ホールドがしっかりあり問題なく稜線に立つことが出来ます。
稜線に沿って登って行くと、「石尊峰」と書かれた石標が立つ平坦な小ピークです。ここは360度の展望がある休憩の最適地です。
小ピークから少し下ります。「三叉峰」の手前の岩陵は左に巻くのが正式ルートですが、右に巻き踏み跡をたどっても通過できますし、 岩稜を直登りしてもOKです。
「三叉峰」の基部を右から巻くと杣添尾根分岐で、 「三叉峰」頂上は杣添尾根分岐の上方10mほどの所にあります。 「三叉峰」より「奥の院」を望むと「無名峰」の先に山頂だけが見えています。
なだらかなピークの「無名峰」をやり過ごし、「奥の院」の基部にある短い梯子を登り、やせ尾根を通過すると標高2,829Mの横岳の主峰「奥の院」山頂に到着します。
「奥の院」の先には「カニの横這い」と呼ばれる茅野側が切れ落ちた斜面を15mほどトラバースする所があり、ここが2回目の核心部です。
トラバースを終えると茅野側から野辺山側にリッジ状の岩を乗り越え10mほどのトラバースがあります。
両トラバースとも足場はしっかりしていて、鎖も設置されているので決して難しくはありません。
ここで岩場は終了し、なだらかな稜線歩きが続いた後、コマクサの群生が広がる中を進みます。硫黄岳山荘の前に立つ駒草神社の前を通り過ぎ、登り返せば 硫黄岳山頂です。
コースタイム
- 地蔵の頭⇒横岳⇒硫黄岳 1時間30分
難易度 3/10
体力 1/10
山梨県側(野辺山)ルート要約
海の口自然郷から杣添尾根(そまぞえおね)を登るルートは、樹林帯の中の単調な登りが3時間ほど続きます。
三叉峰に直接登り上げるため、横岳への最短ルートでエスケープルートとしても使える貴重なコースとなっています。
このコースには鎖場など危険個所は無く登山初心者でも安心して登れますが、6月下旬まで残雪がありスパッツは必携です。
② 杣添尾根ルート
横岳登山口の海ノ口から見る八ヶ岳連峰には、杣添尾根が横岳に向かって延びているのが見えます。
マイカーで海ノ口別荘地の中を走るとY字に分かれる所に、小さく八ヶ岳杣添尾根登山口と書かれた看板を左に向かいます。 (右に進めば八ヶ岳高原ヒュッテに行ってしまいます。)
同じ所に立つ八ヶ岳高原ロッジの看板の前を直進します。
八ヶ岳高原ロッジは森の中にたたずむとても落ち着いた素敵なホテルで、以前テレビで「高原へ行こう」というドラマに使われた事があります。
標高1,754mにある海ノ口自然郷別荘横岳登山口駐車場に車を停め登山を開始します。 横岳杣添尾根登山口には登山届用のポストが設置されています。
ザレた登山道を進むと木々の間からに横岳が見えてきました。
小さい川を越え少し登ると大きく開けた平坦地に出ます。そこには貯水池があり、その前には休憩用の小屋が建っています。
杣添尾根の治山事業の看板の前を通り登山道へと入っていきます。 しばらくは単調な針葉樹林帯の登りが続きます。 橋を渡り、さらにうっそうと茂った針葉樹林帯の中の登りが続いた後、苔で覆われた枯れ木帯の中に入ります。 途中、ところどころで視界が開け、振り返ると野辺山・川上村の高原レタスの畑が広範囲に広がっているのが見渡せます。
枯れ木帯を抜けると6月22日時点で、まだ1mほどの残雪があります。 残雪の中に足を取られながら登り上げると完全に視界が開けてきます。
横岳杣添尾根は山梨県側(東側)から八ヶ岳に登るルートの中で、最も遅くまで残雪がありますのでスパッツは必需品です。
森林限界を抜け展望が開けると、とても綺麗な残雪の赤岳が見えてきます。 横岳の三叉峰へ伸びる稜線に沿って、ハイマツの中に登山道が付いているのが見えています。
展望が開けてからダケカンバの林の中を進みますが、残雪期の視界が悪い時にはトレースが消えていると、木に吊るさっている赤テープが少ない為、ルートを見失う危険がある所です。
また、腐った雪を何度も踏み抜くため残雪帯を抜けるのに夏の数倍も時間がかかることがあります。
ダケカンバの林を抜けハイマツ帯に入ると雪が消え、正面の横岳・三叉峰が大きくなってきます。 傾斜の緩い岩場を超え、ゴロゴロした石の登山道を登り上げると横岳山頂へ至ります。 横岳杣添尾根の分岐の上約10mの所に三叉峰の頂上があります
コースタイム
- 登山:海ノ口自然郷別荘横岳登山口駐車場→横岳 2時間50分
- 下山:横岳→海ノ口自然郷別荘横岳登山口駐車場 2時間30分
難易度 1/10
体力 2/10 日帰り
横岳の日帰り登山は出来る?
長野県側の美濃戸から行者小屋経由で地蔵尾根ルートから奥の院ピストンなら7時間40分です。従って一般的な登山者なら十分日帰り可能ということができます。
山梨県側の海ノ口自然郷別荘横岳登山口から杣添尾根ルートで奥の院のピストンならで5時間15分です。 どちらから入山しても日帰りは十分可能です。
とは言え、赤岳や阿弥陀岳、硫黄岳を周回するなら赤岳頂上小屋や赤岳展望荘、硫黄山荘などに泊まるのが良いでしょう。
横岳の登山口近くの温泉
信州原村八ヶ岳温泉樅の木荘
日帰り入浴施設の「もみの湯」の泉質はナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉です。
宿泊者限定の貸切露天風呂や貸切家族風呂もあります。
利用料
【原村村民】
大人:500円 子供:300円
【原村村民以外】
大人:650円 子供:300円
営業時間
AM10:00~PM 9:30 (PM 9:00までに入館)
休館日
第3水曜日(祝祭日の場合は翌日)
登山口の美濃戸まで5.1km、車で9分です。
横岳の天気の特徴
横岳は晴天の確率は比較的高い
八ヶ岳の南部に位置する横岳の山域は、日本海側特有の冬型気候の影響を受けにくいため積雪量はさほど多くありません。
夏場は午後になると清里側からガスが湧き出る傾向にあります。
6月から7月の梅雨明けまでは晴天率は低いですが、梅雨開けと共に晴天がしばらく続きます。また、秋や春も比較的晴天に恵まれます。しかし、10月上旬で初冠雪を見る年もあり、雨天だけではなく、強風などにも天候には十分な注意が必要です。
横岳に咲く数々の高山植物
八ヶ岳の中でも横岳の岩稜には多種多様な高山植物が密集して咲き、見事なお花畑を作り出します。 特に6月下旬~8月上旬にかけては最も見頃となります。
各種情報
横岳登山ツアー
- 横岳|登山・トレッキングツアー
観光協会・観光案内所
- 北杜市観光協会 電話:0551-42-1351
- 清里駅前観光案内所「あおぞら」 電話0551-48-2200
- 八ヶ岳観光協会 電話:0266-73-8550
- 茅野市観光協会 電話:0266-73-8550
- 富士見町観光案内所 電話:0266-62-5757
- 原村観光連盟 電話:0266-74-2501
- 南牧村観光協会 電話:0267-98-2091
- 小海町観光協会 電話:0267-93-2005
- プラザ佐久 電話:0267-68-7433
登山届提出
長野県 | 長野県警察本部地域部山岳安全対策課 電話:026-233-0110 長野県のホームページ |
山梨県 | 山梨県警察 山梨県警察本部地域課 住所:〒400-8586 甲府市丸の内1-6-1 電話番号:055(221)0110(代表)郵送、電子メール、 ファックスなので提出可能です。 |
登山地図のスマホアプリ
- 山と高原地図のスマホアプリ
昭文社から販売されています。山と高原地図ホーダイ - 登山地図ナビアプリ 定額(500円/月 or 4800円/年)で61エリアの「山と高原地図」が使い放題。山と高原地図[地図単品購入版]地図1エリア 650円。
横岳山頂周辺の気温
最高気温 | 平均気温 | 最低気温 | |
1月 | -8.2 | -12.9 | -20.0 |
2月 | -7.7 | -12.5 | -19.6 |
3月 | -3.4 | -9.0 | -14.8 |
4月 | 3.8 | -2.5 | -8.7 |
5月 | 8.4 | 2.5 | -3.4 |
6月 | 11.5 | 6.4 | 1.8 |
7月 | 14.6 | 10.3 | 6.4 |
8月 | 16.1 | 11.1 | 7.1 |
9月 | 11.7 | 7.1 | 3.1 |
10月 | 5.9 | 0.7 | -4.7 |
11月 | 0.9 | -4.6 | -10.2 |
12月 | -4.7 | -10.1 | -16.2 |
横岳へ登るための装備と服装
軽アイゼン | 12本歯アイゼン | ピッケル | サングラス | テント | |
1月 | × | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
2月 | × | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
3月 | × | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
4月 | × | ◎ | ◎ | △ | △ |
5月 | △ | ○ | ○ | △ | △ |
6月 | △ | × | × | △ | × |
7月 | × | × | × | △ | × |
8月 | × | × | × | △ | × |
9月 | × | × | × | △ | × |
10月 | × | × | × | △ | × |
11月 | × | × | × | △ | × |
12月 | △ | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
服装や装備品のチェックリスト
登山地図 | 必須 登山地図を忘れると道迷いの原因に!横岳を中心に南八ヶ岳のルートは多くの箇所に分岐があります。 登山地図を持って行かないのは命取りと言えます。 |
レインウェア | 必須 山の天候は急変します。天気予報で晴が出ていても レインウェアは必須です。また、防寒着としても使えます。 セパレートタイプの通気性と防水性を兼ね備えたゴアテックスがベストです。 |
帽子 | 必須 稜線に上がると直射日光が強烈に降り注ぎます。行者小屋の少し上から森林限界を超えます。日よけ用のつばが広く軽いものをお奨めします。寒さが厳しいときは、耳を覆うニット製、冬山ではフルフェイスタイプをお奨めします。 |
日焼け止め | 必須 横岳は標高2,829mのため、 稜線では日光を遮る木々が一切ありません。森林限界を超えると紫外線が強いので必帯です。 |
飲料水 | 必須 天気の良い日は少し多めに持って行きましょう。 行者小屋と赤岳鉱泉に水場があります。赤岳頂上小屋では水の販売があります。。山梨県側(野辺山)杣添尾根ルートには水場がありません。 登山行程に合わせて水の量を調整するとよいでしょう。 |
ヘッドランプ | 必須 夜になると電気を落としてしまう山小屋もあります。そんな時トイレに行くのが不自由です。また、暗い内から山頂まで登り、御来光を拝むためにも必要です。 |
行動食 | 必須 コースタイムがやや短いのでお好みで持っていくと良いでしょう。パン・ナッツ類・野菜ジュース、飲むヨーグルトなど立ち休憩で食べられるものがお薦めです。 |
パックカバー | 必須 ザックが濡れないようにするためのザックカバーは雨に日には絶対必要です。ザックカバーも雨衣と同様に防水性が衰えてきます。時折、防水スプレーをするなどのメンテナンスが必要です。 |
救急薬品 | 必須 切り傷、擦り傷にカットバン、絆創膏を持っていくと良いでしょう。虫刺され薬品も。 |
ティッシュペーパー | 必須 止血用などの万が一の時のために必帯です。ポケットティッシュを水で濡らし耳栓として使う場合にも有効です。 |
防寒着 | 必須 薄手のフリース,セーター、軽いダウンジャケット。 横岳山頂では、7~8月でも最低気温が6度近くまで下がることがあります。 軽くて保温性の高いものを選びます。ゴアテックスのレインウェアを その上に着ると更に保温性が高まります。 |
手袋 | 必須 鎖場に使います。革製の手袋がベストですが、軍手でもOKです。 |
耳栓 | あったら良い 横岳周辺の山小屋では大部屋が基本です。就寝時に いびきをかく人が必ずいます。耳栓の効果は絶大です。 |
カメラ | あったら良い 大パノラマや高山植物が豊富なので山旅の思い出にぜひどうぞ。ウエストポーチに収納出来る大きさであることが望ましいです。 |
ビニール袋 | あったら良い ごみ入れとして、使用前の下着入れ、使用後の下着入れとして4~5個あると便利です。 |
保険証(コピー) | あったら良い 事故や遭難時に必要です。 |
サブザック | あったら良い 行者小屋や赤岳鉱泉にザックを置いて、サブザックで身軽な状態で山頂ピストンが出来ます。水、カッパなど必要最低限が入る軽いコンパクトなものを使用すること。 |
シュラフカバー | あったら良い 遭難時や混雑している山小屋(一つの布団に2人)で役に立ちます。毛布2枚を床に敷きゴアテックス製のシュラフカバーに入ります。 |
江戸時代に山岳修験の霊場となった横岳
横岳には二十三夜峰、石尊峰、三叉峰、奥ノ院、大同心、小同心なども山岳信仰に縁のある名前が付いています。江戸時代には赤岳と共に禅定者(ぜんじょう)達が精進潔斎(しょうじんけっさい)の後、登山したとされています。
茅野市中道及び茅野市槻木には赤嶽神社里宮が鎮座し、そこから赤岳や横岳に向かう登拝路が作られていたようです。
主稜線上にある地蔵の頭から二十三夜峰、鉾岳、石尊峰にかけて石碑が多く祀られています。これらの石碑は茅野市中道新田の人々が祀ったもので、横岳が修験道の霊場の中心となっていたことが分ります。
- 禅定道(ぜんじょう)-富士山・立山・白山などの霊山に登って修行することなども禅定という。後に修験道へと発展していった。
- 進潔斎-肉食を断ち、行いを慎んで身を清めること。