北岳とは
日本百名山の一つでもある標高3,193mの北岳は日本第2位の高峰で、間の岳、農鳥岳とともに白峰三山(白根三山)を構成し、「南アルプスの盟主」との呼び名が高い秀峰です。
北岳は、甲府盆地の標高の高い所から見れば鳳凰三山と早川尾根の奥にその山頂だけを覗かせています。 山域は山梨県南アルプス市芦安村に属しています。
広く高山帯にあるため日本有数の高山植物の宝庫で、各所にお花畑を作っています。 北岳固有種のキタダケソウは雪解けとともに開花し、6月下旬から7月上旬が見頃となります。北岳周辺の地質は、保水性と通気性を兼ね備えているため、数多くの高山植物を育んでいると言わています。
北岳へは芦安からバスで広河原に入り、入山するのが一般的で便利です。 芦安駐車場と広河原間のバスの本数は多く便利ですが、乗合タクシーなら9人集まれば即座に出発してくれ、バスより100円高いだけなので おすすめです。
北岳へのルートは複数あり、中でも変化に富んでおすすめなのが「八本歯のコル」を経由して登るルートです。大樺沢 (おおかんばざわ)の雪渓を抜けると屏風のようにそそり立つ岩の壁が見えてきます。北岳バットレスです。
また、絶対に外せない場所は北岳山荘と八本歯ノコル間のトラバースルートです。アップ・ダウンはほとんどなく、展望もよく高山植物が大変豊富な場所で、北岳固有種のキタダケソウはここで咲きます。
- 1. 北岳の地図
- 2. 北岳の山小屋
- 3. 北岳のアクセス
- 4. 北岳の登山コース概要
- 4.1. ① 八本歯ノコル(左俣)ルート
- 4.2. ② 右俣ルート
- 4.3. ③ 草スベリコース
- 4.4. ④ トラバース道ルート
- 4.5. ⑤ 北岳山荘から池山吊尾根分岐ルート
- 5. 北岳の日帰り登山は出来る?
- 6. 北岳の登山口近くの温泉
- 7. 北岳の天気の特徴
- 8. 北岳の魅力
- 8.1. 岩場に咲く豊富な高山植物
- 8.1.1. 岩壁や岩隙に咲く高山植物
- 8.2. 北岳にのみ咲くキタダケソウ
- 8.2.1. 北岳でキタダケソウが見られる場所
- 8.3. 希少種 ミヤマハナシノブ
- 8.4. 北岳バットレス
- 8.5. 北岳に咲く数々の高山植物
- 8.5.1. 風衝地の草本植物群落
- 9. 各種情報
- 9.1.1. 北岳登山ツアー
- 9.1.2. 観光協会
- 9.1.3. 登山届提出
- 9.1.4. 登山地図のスマホアプリ
- 10. 北岳山頂周辺の気温
- 11. 北岳へ登るための装備と服装
- 12. 服装や装備品のチェックリスト
- 13. 北岳に設置されていた三角点標石
- 14. 北岳開山の歴史
- 15. 北岳の歴史書
北岳の地図
北岳の山小屋
北岳のアクセス
北岳の登山コース概要
① 八本歯ノコル(左俣)ルート
八本歯のコル(左俣)ルートは、大樺沢(だいかんばさわ)源頭部に屏風のようにそそり立つ岩の壁が見えてきます。北岳の東側斜面を標高差600mで形作るロッククライミングで有名な北岳バットレスです。八本歯のコル直下の稜線から見ると岸壁をよじ登るクライマーを見ることが出来るかもしれません。
大樺沢の雪渓を抜け、木製の丸太梯子(傾斜はあまりきつくない)が連続する難所を直上すると八本歯のコルに飛び出します。
八本歯のコルで森林限界を超え、山頂に連なる稜線の風衝草原にはキンロバイ、タカネイブキボウフウ、イワベンケイ、ハクサンイチゲなどの背の低い高山植物が高密度でお花畑を形成しています。
このルートは簡単な岩稜の登りとともに、白鳳三山方面の展望を楽しませてくれます。
雪渓の通過は例年7月末辺りまでアイゼンが必要です。7月上旬辺りまでは12本歯のアイゼンとピッケルが必要でしょう。雪渓の状態は北岳山荘に問い合わせるとよいでしょう。
八本歯ノコルに向かうには芦安、北沢峠、奈良田方面からのバスの発着地になっている広河原の野呂川広河原インフォメーションセンター(旧アルペンプラザ広河原)前で下車します。舗装された南アルプス林道を少し歩いて、野呂川に架かる吊り橋を渡ります。対岸に渡ると、旧広河原山荘があり、その脇から登山道が始まります。
樹林帯の中を20分ほど登り、白根御池小屋方面の指導標を右に見送り、大樺沢(おおかんばざわ)へと入ります。
しばらくは大樺沢の左岸(向かって右側)に沿って登りますが、大樺沢の清流に架かる橋を何度か渡り返えします。大樺沢の雪渓の先に八本歯ノコルを確認できる所まで来ると少しずつ展望が開けてきます。
高山植物の咲く大樺沢の左岸(右側)を少し登ると、白根御池小屋からのルートを合わせる大樺沢二俣に到着します。 大樺沢二俣は休憩ポイントになっていてバイオトイレが設置されています。
大樺沢二俣は登山道が三つに分岐するポイントで、このまま大樺沢の左岸(右側)に沿って直進し、八本歯のコルを目指す左俣コース、お花畑の中を右斜め方向に向かい北岳肩の小屋を目指す右俣コース、そして白根御池小屋からの登山道がここ大樺沢二俣で合流しています。
左俣コースは二俣から雪渓に沿って大樺沢の左岸(右側)を詰め、雪渓上部で右岸(左側)へ渡り、八本歯ノコルから派生する尾根に取り付きます。例年7月末まではアイゼンを持参した方が無難です。夏道が雪で覆われ、雪渓上を歩かなければいけないからです。雪渓の傾斜は強く壺足での歩行は大変危険を伴います。特に、下りに使う場合はなおさらです。年によっては7月中旬でも12本歯アイゼンとピッケルが必要な場合がありますから、雪渓の状態を北岳山荘に確認してから出発することをお勧めします。
トラバース道に咲くキタダケソウは7月上旬にその姿を消してしまいます。キタダケソウに逢うためには大樺沢を詰めるのが近道ですが、南アルプス林道が開通する6月25日にはまだ多くの残雪があり、雪渓通過に1時間以上必要です。雪渓上に設置された竹に付けられた赤札が登山ルートの目印になっています。特に雪渓上部では斜度が30度を超える所もあり、先行者がいなければかなり辛い登りになります。
雪渓を越えてからこのルートの核心部に入ります。北岳バットレスと呼ばれる岩壁を眺めつつ、傾斜約40度~45度の木製の丸太の梯子が連続する所を越えると八本歯ノコルに飛び出し難所が終わります。
難所といっても難易度は低く登山初心者でも十分こなせるルートといってよいと思います。
しかし、八本歯ノコルではまれに滑落事故があります。多くは梯子を滑って数メートル下に落ちるもので大怪我は少ないようですが、雨の日は木製の丸太で出来た梯子が滑りますから注意が必要です。
八本歯ノコルに上がると全体が一望でき、北岳山荘の先に大きく横たわる間ノ岳が見えてきます。八本歯ノコルから吊尾根の岩に架かった梯子を登ります。北岳山荘分岐を左に見送り、ガレ場を登ると、登山道の周辺の風衝地一面を高山植物で覆われます。シロバナタカネビランジやキンロバイなどが咲き乱れる砂礫地をジグザグに登れば吊尾根分岐です。
吊尾根分岐からの斜度はあまりきつくなく、鎖場などの難所も無く、眺望と高山植物を楽しみながらの登りとなり、日本第二位の標高を誇る北岳山頂に到着します。
コースタイム
- 登山:広河原→北岳 5時間30分
- 下山:北岳→広河原 3時間40分
難易度 3/10
体力 2/10 (1泊)
② 右俣ルート
右俣ルートと草スベリルートとを比べると、北岳の眺望やお花畑などの優劣を勘案すると右俣コースに軍配が上がるのではないでしょうか。
右俣コースでは背丈が1m近くになる高茎草原が広がり、7月上旬から8月上旬にかけてハクサンフウロ、イブキトラノオ、シナノキンバイ、ミヤマハナシノブなどの高山植物が花を咲かせます。
北岳右俣コースの起点となる二俣に向かうには 広河原から白根御池小屋を経由するルート(登山:3時間30分)と、大樺沢を詰める(登山:2時間30分)二つのルートがあります。2023年、大樺沢を詰めるルートは、大樺沢に仮設橋が設置されないので使えません。
今回は白根御池小屋を経由するコースを案内します。
広河原から単調な樹林帯の登りが続き白根御池小屋へ到着します。 白根御池小屋のすぐ脇にある草スベリ分岐を右手にやり過ごし、平坦な道を30分ほど進むとバイオトイレが設置され、休憩ポイントになっている大樺沢二俣に到着します。大樺沢二俣周辺には北岳特産のミヤマハナシノブがあちこちに花を咲かせています。
※山梨県は1996年(平成8年)から大樺沢の水質調査を始めました。すると大腸菌を検出したため、大樺沢二股に仮設トイレを設置しました。その後、大腸菌は検出されなかったため、バイオ式トイレの設置を決定しました。
大樺沢二俣から北岳の展望とお花畑に恵まれた右俣コースを小太郎尾根の稜線に向けて登っていきます。 右俣コースは鎖場や急な梯子などはなく登山初心者でも安心して登山出来るルートです。
ダケカンバの林を右に斜上し、そこを抜けると北岳が左手上方に姿を現します。北岳のすそ野に広がるカール状のお花畑の中を縫うように登り、前方の小太郎尾根の稜線を目指します。
お花畑を抜けたところで、右上方に進路を変え、再びダケカンバの林の中に入ります。 ダケカンバの林を抜けたところで白根御池小屋からの草スベリルートと合流します。
ここからお花畑の中をジグザグに登ると小太郎尾根分岐に着きます。 小太郎尾根分岐に飛び出すと一気に展望が開けてきます。小太郎尾根の先に見える山頂部が白い花崗岩で出来た甲斐駒ケ岳は、まるで雪が積もっているようです。更にその右手側の早川尾根から続く稜線上にある突起(オベリスクス)を見つけると鳳凰三山の地蔵岳であることが分かり、何かほっとした気持ちにさせられます。
岩稜の稜線上を北岳肩ノ小屋に向け進みます。 一か所に鎖が設置されていますが高度感はなく初心者でも簡単に通過出来ます。
北岳肩ノ小屋から一段下がった所にキャンプ指定地があり、更にそこから片道15分ほど坂を下った所に水場があります。しかし水量は細く、北岳肩ノ小屋で売られている1L100円の水を買った方がよいかもしれません。雨が続いている時は、水量は多いと思いますので、山小屋で確認すると良いでしょう。
小屋からは急な岩場が続き、小ピークを越えた所で両俣小屋への分岐があり、両俣小屋方面(左俣沢コース)へ尾根が伸びています。
山頂まではさらに岩場が続きますが、鎖場や梯子などはなく、ほどなくして日本第二位の標高を誇る北岳山頂に到着します。
山頂は当然のことながら360度の展望があり、甲斐駒ケ岳・仙丈ケ岳が目と鼻の先に見え、雲海に浮かぶ富士山が印象的です。
コースタイム
- 登山:広河原→北岳 6時間10分
- 下山:北岳→広河原 4時間15分
難易度 1/10
体力 2/10 (1泊)
③ 草スベリコース
白根御池小屋から白根御池小屋分岐へ至る「草スベリ」という名のついた急登で、約1時間45分の行程です。白根尾池小屋近くのキャンプ指定地から草スベリ登山道が始まります。人間の頭がすっぽりと隠れてしまうくらい背の高い草地の間を登っていきます。
北岳の山頂部が見え始める辺りから、ダケカンバの林となり林床にはマルバダケブキの黄色い花が咲き誇ります。ダケカンバの林を向けると一気に展望が開け、草付きの緩斜面となり、大樺沢二俣へ向かう白根御池小屋分岐に到着です。
コースタイム
- 登山:白根御池小屋→白根御池小屋分岐 1時間45分
- 下山:白根御池小屋分岐→白根御池小屋 1時間30分
難易度 1/10
体力 1/10
④ トラバース道ルート
北岳山荘と八本歯ノコル間にあるトラバース道は梯子や橋が連続していますがアップ・ダウンはほとんどなく、写真で見るほどの高度感もなく安心して歩けるルートです。 しかし、雨の日などは梯子や橋が滑りやすくなってますから通過には注意してください。
大変展望もよく背の低い高山植物が豊富な場所です。特に、6月になると他の花々に先駆けて咲く北岳固有種のキタダケソウはこの周辺に生育しています。
北岳山荘から八本歯のコル方面へのトラバース道は写真で見ると断崖絶壁に桟橋が連続して架かっている様に見えますが、実際にはなだらかな斜面に作られた登山道でアップ・ダウンは少なく、高度感はほとんどありません。
風景はとても美しく、北岳山荘から北岳山頂に向かう直上りルート上にあるお花畑と肩を並べるほど、北岳における代表的な高山植物が豊富な所です。
雨の日など梯子や桟橋が滑りやすくなっていて、稀に滑落事故もあるのでそういった日の通過には注意してください。
八本歯のコルと北岳山荘と吊尾根分岐のトライアングルを形成する区間は高山植物が豊富で、北岳特有のキタダケソウも自生するところなので、北岳を登山する際には欠かせないコースです。
コースタイム
- 北岳山荘→トラバース道分岐 1時間
- トラバース道分岐→北岳山荘 55分
難易度 1/10
体力 1/10 (1泊)
⑤ 北岳山荘から池山吊尾根分岐ルート
北岳山荘から北岳山頂に向かう直登りルートは変化に富んだ岩稜の登りです。 登山道の傾斜は比較的緩く、昭文社の地図に危険マークがありますが、難しい場所はありません。しかし、丸太の梯子が一か所に架けられていて、雨天時などは滑りやすいので登下山には注意してください。
また、登山道沿いの岩場には色とりどりの背丈の低い高山植物(シコタンソウ、タカネシオガマ、タカネツメクサ、オヤマノエンドウ、チョウノスケソウ)などが大変見事な天然の花壇を作り出しています。 南アルプスの中でも最も綺麗なお花畑だと思います。
北岳山荘から北岳に向かう直登りルートは、岩稜の登りです。八本歯のコルへ向かうトラバース道と並行するように走っています。トラバース道分岐までは尾根どおしの広い稜線を緩やかに登っていきます。
ここを過ぎると稜線の左側をトラバース気味に登ります。一か所に短い丸太の梯子が掛けられ、その上が簡単な鎖場になっています。 鎖につかまって登るほどの岩場ではありません。足元が濡れている時は滑りますので登下山には注意してください。
昭文社の登山地図には危険表示がありますが特に困難な場所ではなく、登山初心者の方でも安心して登ることが出来ます。
このルートの岩場に咲く背の低い高山植物が作る箱庭の様なお花畑は、南アルプスでもここだけと言ってよいでしょう。 北岳に来たら絶対に外せないルートです。
十分に花を楽しんだら出発します。稜線の左側のトラバースは続き、八本歯のコルから上がるルートが合流する吊尾根分岐に到着します。
コースタイム
- 登山:北岳山荘→池山吊尾根分岐 50分
- 下山:池山吊尾根分岐→北岳山荘 40分
難易度 2/10
体力 1/10 (1泊)
北岳の日帰り登山は出来る?
北岳を日帰りするには芦安バス停を朝5:15分に出発する始発のバスに乗れば、広河原に6:13分に着きます。帰りは広河原発の最終バスが16:40分です。従って、10時間27分の山行が組めます。
八本歯ノコル(左俣)ルートで登れば往復でコースタイムが9時間10分なのでの最終バスに間に合います。しかし、標高差が1,663mあり日帰り登山は健脚者のみが可能でしょう。
北岳の登山口近くの温泉
北岳登山口周辺の山梨県芦安に良質な温泉が沸きます。
北岳、間ノ岳や農鳥岳への縦走の前夜泊や下山後の宿泊として便利です。
代表的な温泉に芦安温泉「岩園館」、「桃の木温泉 さんわそう」などがあります。
芦安温泉「岩園館」
源泉掛け流しのナトリウム・カルシウム・硫酸塩温泉(アルカリ性低張性高温泉)です。
大岩露天風呂・屋上露天風呂・展望大浴場の3つの大浴場があります。
甲府駅南口から路線バスがあります。御勅使で下車すると送迎があります。
シャトルバスの発着場になっている南アルプス温泉ロッジ・白峰会館まで1.5kmで徒歩18分です。
日帰り入浴のみは(2時間まで)
一人様 1,000円(税込)
桃の木温泉 さんわそう
温泉は加水・加温・循環なしの「100%源泉かけ流し」です。湯量豊富な自噴温泉はアルカリ性単純温泉です。開放感抜群の露天風呂が魅力です。
甲府駅南口から路線バスがあります。御勅使で下車し、タクシーで15分です。または、終点のシャトルバスの発着場で下車して徒歩でも可能です。
シャトルバスの発着場になっている南アルプス温泉ロッジ・白峰会館まで1.9kmで徒歩25分です。
北岳の天気の特徴
北岳は晴天の確率が比較的高い
南アルプスの北部に位置する北岳の山域は、日本海側特有の冬型気候の影響を受けにくいため積雪量は多くありません。
また、南アルプスの中では比較的晴天に恵まれることが多いのも 特徴に挙げられます。
夏山シーズンは6月25日から11月3日までの登山口の広河原までシャトルバスが運行されている期間のみです。
6月から7月の梅雨明けまでは晴天の確率は低いですが、梅雨開けと共に晴天がしばらく続きます。また、秋も比較的晴天に恵まれます。しかし、10月上旬で初冠雪を見る年もあり、雨天だけではなく、強風などにも天候には十分な注意が必要です。
北岳の魅力
岩場に咲く豊富な高山植物
岩壁や岩隙に咲く高山植物
土壌が発達せず、雨の日しか水分を確保出来ない岩壁や岩隙などには、背の低い高山植物が生えます。
例えば、タカネシオガマ、シコタンソウ、タカネツメクサ、ミヤマムラサキ、チシマギキョウ、イワヒゲ、イワベンケイなどです。
これらの植物は、地上の土壌の移動が激しい周氷河地形の周辺や崩壊地など、極めて厳しい環境条件に適用した植物と言えます。
北岳にのみ咲くキタダケソウ
北岳でキタダケソウが見られる場所
北岳山腹のトラバース道と八本歯のコルから少し登った吊尾根の一部にのみキタダケソウの群生地が分布しています。石灰岩の岩棚から流れ出すカルシウムがキタダケソウを育むと言われています。6月下旬から7月上旬、梅雨の僅かな晴れ間、雪がまだ残る山稜でいち早く白く透き通った花をつける幻のキタダケソウ。幸運な人がその姿を目にすることが出来ます。
キタダケソウは2万年前の氷河期、北方の大陸から渡って来ました。氷河時代の生きた化石と呼ばれるキタダケソウの近縁種に北海道で見られるヒダカソウがあります。北岳は百万年前から続く地殻変動で、海から隆起して出来た山です。この石灰岩は、トラバース道から北岳バットレスを越えて帯状に伸びた範囲に分布しています。研究によると、この石灰岩は太平洋のイースター島付近で形成された事が分りました。そして長い年月をかけ、海底のプレートが移動し、北岳の山頂付近まで押し出されて出来たものです。石灰岩が高山にあるのは珍しく、南アルプスでは北岳の他に光岳に分布しています。
キタダケソウの発見は昭和6年7月17日に現千葉大学園芸学部の清水基夫氏によってなされました。
希少種 ミヤマハナシノブ
北海道や白馬岳周辺、南アルプスの北岳の大樺沢雪渓の脇などの亜高山帯の草地に生えます。
特に北岳の二股周辺の大樺沢雪渓脇の草地にはよく見かけますが、その他の山ではなかなか見かけない貴重な高山植物です。
ミヤマハナシノブの名前は「シノブ」というシダ植物の葉に似ていることからこの名が付いたとされています。
北岳バットレス
大樺沢(だいかんばさわ)源頭部に屏風のようにそそり立つ岩壁があります。北岳の東側斜面を標高差600mで形作るロッククライミングで有名な北岳バットレスです。
大樺沢から北岳山頂に向け鋭く立ち上がっている岩稜は、7本の岩稜(東北尾根、第1尾根、第2尾根、第3尾根、中央稜、第4尾根、第5尾根)により構成されています。最長の第4尾根が登攀の中心になり、昭和9年10月に湯浅巌らによって初登攀がなされています。八本歯のコルに上がる稜線の途中からクライマーを確認することが出来ます。双眼鏡があれば更に楽しめると思います。
北岳バットレスの第4尾根の最終ピッチ部で2010年10月10日に大規模な崩落が発生しましたが、bガリー大滝取り付き後、第四尾根登攀が可能です。
北岳に咲く数々の高山植物
風衝地の草本植物群落
風衝地の中でも強風による影響が強い場所では、木の仲間 は育ちません。石や砂が飛ばされるような不安定な場所にはトウヤクリンドウ、キンロバイ、オヤマノエンドウ、ハクサンイチゲといった背の低い高山植物が群落を作ります。
八本歯ノコルから池山吊尾根分岐周辺にかけてまさにこういった風衝地です。
各種情報
北岳登山ツアー
- 北岳|登山・トレッキングツアー
観光協会
- 南アルプス市観光協会 電話:055-284-4204
登山届提出
- 山梨県側は山梨県警察。電子申請やFAXなどで対応。
登山地図のスマホアプリ
- 山と高原地図のスマホアプリ
昭文社から販売されています。山と高原地図ホーダイ - 登山地図ナビアプリ 定額(500円/月 or 4800円/年)で61エリアの「山と高原地図」が使い放題。山と高原地図[地図単品購入版]地図1エリア 650円。
北岳山頂周辺の気温
最高気温 | 平均気温 | 最低気温 | |
1月 | -10.4 | -16.1 | -21.8 |
2月 | -8.9 | -15.0 | -21.1 |
3月 | -4.6 | -11.2 | -17.3 |
4月 | 2.1 | -5.0 | -11.9 |
5月 | 6.8 | 0.4 | -5.5 |
6月 | 9.8 | 4.2 | -0.5 |
7月 | 13.0 | 7.7 | 3.5 |
8月 | 14.5 | 8.4 | 4.0 |
9月 | 10.2 | 4.5 | 0.0 |
10月 | 4.4 | -1.9 | -7.3 |
11月 | -1.7 | -8.3 | -14.1 |
12月 | -7.4 | -14.4 | -18.7 |
北岳へ登るための装備と服装
軽アイゼン | 12本歯アイゼン | ピッケル | サングラス | テント | |
1月 | × | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
2月 | × | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
3月 | × | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
4月 | × | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
5月 | × | ◎ | ○ | ◎ | ◎ |
6月 | × | ◎ | △ | △ | ◎ |
7月 | ○ | ○ | × | △ | × |
8月 | × | × | × | △ | × |
9月 | × | × | × | ○ | × |
10月 | × | × | × | ○ | × |
11月 | × | × | △ | ○ | ◎ |
12月 | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
服装や装備品のチェックリスト
登山地図 | 必須 登山地図を忘れると道迷いの原因に!北岳はいたるところに分岐があります。 登山地図を持って行かないのは命取りと言えます。 |
レインウェア | 必須 山の天候は急変します。天気予報で晴が出ていても レインウェアは必須です。また、防寒着としても使えます。 セパレートタイプの通気性と防水性を兼ね備えたゴアテックスがベストです。 |
帽子 | 必須 稜線に上がると直射日光が強烈に降り注ぎます。八本歯ノコルや白根御池小屋分岐点辺りで森林限界を超えます。日よけ用のつばが広く軽いものをお奨めします。寒さが厳しいときは、耳を覆うニット製、冬山ではフルフェイスタイプをお奨めします。 |
日焼け止め | 必須 北岳は3100メートルを超えているため、 稜線では日光を遮る木々が一切ありません。森林限界を超えると紫外線が強いので必帯です。 |
飲料水 | 必須 天気の良い日は少し多めに持って行きましょう。 大樺沢を直登して八本歯のコル経由のルートには水場がありません。(※雪渓から水は取れる)また、白根御池山小屋と北岳肩の小屋での確保は可能です。 登山行程に合わせて水の量を調整するとよいでしょう。 |
ヘッドランプ | 必須 夜になると電気を落としてしまう山小屋もあります。そんな時トイレに行くのが不自由です。また、暗い内から山頂まで登り、御来光を拝むためにも必要です。 |
行動食 | 必須 登山のコースタイムが長いので多めに持っていくと良いでしょう。パン・ナッツ類・野菜ジュース、飲むヨーグルトなど立ち休憩で食べられるものがお薦めです。 |
パックカバー | 必須 ザックが濡れないようにするためのザックカバーは雨に日には絶対必要です。ザックカバーも雨衣と同様に防水性が衰えてきます。 時折、防水スプレーをするなどのメンテナンスが必要です。 |
救急薬品 | 必須 切り傷、擦り傷にカットバン、絆創膏を持っていくと良いでしょう。虫刺され薬品も。登山行程が長く体力を必要とするところが多いので、トクホンのような筋肉痛に効く貼り薬。 |
ティッシュペーパー | 必須 登山中いきなりしたくなってしまった場合など、止血用などの万が一の時のために必帯です。ポケットティッシュを水で濡らし耳栓として使う場合にも有効です。 |
防寒着 | 必須 薄手のフリース,セーター、軽いダウンジャケット。 北岳山頂では、7~8月でも最低気温が3度近くまで下がることがあります。 軽くて保温性の高いものを選びます。ゴアテックスのレインウェアを その上に着ると更に保温性が高まります。 |
手袋 | 必須 大樺沢の雪渓を登るところや梯子や岩場で、三点支持で登る時に使います。革製の手袋がベストですが、軍手でもOKです。 |
耳栓 | あったら良い 北岳は山中の山小屋で最低でも一泊するコースがほとんどです。山小屋では大部屋が基本です。就寝時に いびきをかく人が必ずいます。耳栓の効果は絶大です。 |
カメラ | あったら良い 高山植物が豊富なので山旅の思い出にぜひどうぞ。ウエストポーチに収納出来る大きさであることが望ましいです。 |
ビニール袋 | あったら良い ごみ入れとして、使用前の下着入れ、使用後の下着入れとして7~8個あると便利です。 |
保険証(コピー) | あったら良い 事故や遭難時に必要です。 |
サブザック | あったら良い 北岳肩の小屋や北岳山荘にザックを置いて、サブザックで身軽な状態で登ることが出来ます。水、カッパなど必要最低限が入る軽いコンパクトなものを使用すること。 |
シュラフカバー | あったら良い 遭難時や混雑している山小屋(一つの布団に2人)で役に立ちます。毛布2枚を床に敷きゴアテックス製のシュラフカバーに入ります。 |
北岳に設置されていた三角点標石
北岳山頂の三等三角点「白根岳」は、明治37年(西暦1904年)7月7日に設置されました。長らく測量のための位置の基準として、その役割を果たしてきましたが、100余年の風雪による山頂の浸食により標石上部の柱石が露出、転倒したため、国土地理院が平成18年(西暦2006年)7月8日に、南アルプス市とNPO 法人芦安ファンクラブの全面的な協力を得て、標石を交換すると共に、 旧位置を掘り下げて埋め直しを行いました。
三角点標石は、柱石と盤石から構成され、それぞれの中心に刻まれた十字の交点が一致する様に設置されています。このため、地表に出ている柱石が破損もしくは亡失しても、地中の盤石が正常であれば、元通りに復元出来るようになっています。北岳の三等三角点「白根岳」は、地中に残っていたこの旧い盤石が健全な状態で保存されていたため、元の位置に復旧する事が出来ました。
南アルプス芦安山岳館より
北岳開山の歴史
北岳は、日本第2の高さを誇る高峰にもかかわらず、
その立地条件上、余りにも奥深く古から山岳信仰の対象にはなっていなかったようです。前述したように古い書物にも遠くから眺めて詠ったものばかりで、登山をしたというような記述は見つかりません。確実な記録があるのは明治2年(明治4年説もある)、芦安村の行者名取直衛によって登山道が作られ、山頂に甲斐ヶ根神社本宮(奥宮)を祀り、御池の下の中宮、夜叉神峠に前宮(里宮)を建立したとされています。その後、参拝する人が少なく登山道は荒廃していったようです。
明治時代の後期に、日本アルプスの父と讃えられる英国人宣教師ウォルター・ウェストン師が明治35年8月(1902年)と37年に大樺沢から登頂を果しています。明治37年は、陸地測量部の吉村武雄氏が北岳山頂に三等三角点を設置した年でもありました。そして近代登山の幕開けとなりました。
参照;名山の文化史
北岳の歴史書
古くから白根三山を甲斐ヶ根・甲斐峰(かいがね)、または
甲斐の白根(白根・白嶺)と言い、北岳は白根山と呼ばれていました。『古今和歌集』巻二十に東歌の中にある次の二首「甲斐(かひ)が嶺(ね)をさやにも見しがけけれなく横ほり臥(ふ)せる小夜(さや)の中山」「かひがねをねこし山こし吹く風を人にもがもやことづてやらむ」が北岳について最も早く詠まれたものとされています。その後、「続後撰集」の蓮生法師、「新千載集」の 大江茂重などにより詠まれた歌が残っています。
そして、「平家物語」にも登場します。一ノ谷合戦に破れて捕えられた平重衡(たいらのしげひら)が梶原景時(かじわらかげとき)に送られて鎌倉へ護送される途中、駿河の手越にさしかかったくだりに、「宇津の山辺の蔦の道、心細くも打越えて、手越を過ぎて行けば、北に遠ざかって雪白き山あり。問えば甲斐の白峰といふ。その時三位の中将落る涙を抑えつつ、惜しからぬ命なれども今日までぞつれなき甲斐の白根をも見つ」。更に、鎌倉時代の紀行である「海道記」にも記述が見られます。