穂高岳とは

穂高岳は、奥穂高岳(標高3190m)を主峰として、涸沢岳、前穂高岳、北穂高岳、西穂高岳、明神岳などからなる穂高連峰の総称で、岩峰が並び立つ日本のアルピニズムの聖地と呼ぶにふさわしい名山です。深田久弥は迷うこと無く日本百名山に選定しています。

屏風岩、北穂滝谷、前穂東壁など日本有数のロッククライミングの岩壁を有し、日本を代表する氷河圏谷「涸沢カール」の紅葉、雪渓、お花畑、豪快な展望など、北アルプスの魅力が詰め込まれたエリアです。

穂高岳の名前の由来

江戸時代後期の「穂高嶽記」に「秀高嶽/ほたかだけ」という記述があります。「秀」に変わって仮字の「穂」が使われるようになったという説があります。現在は「ホダカダケ」と発音する人がほとんどです。 

奥穂高岳、前穂高岳、西穂高岳、 北穂高岳それぞれ単体で登る場合には極端に難易度は高くありません。

しかし、縦走路になると一気に難易度は上がります。 ジャンダルム周辺や大キレットなどは、北アルプス最大の難所が控えています。

穂高岳の地図

穂高岳の山小屋

北アルプス山小屋
穂高岳山荘
穂高岳山荘
北アルプス山小屋
北穂高小屋
北穂高小屋
北アルプス山小屋
涸沢ヒュッテ
涸沢ヒュッテ
北アルプス山小屋
涸沢小屋
涸沢小屋
北アルプス山小屋
岳沢小屋
岳沢小屋
北アルプス山小屋
西穂山荘
西穂山荘
北アルプス山小屋
槍平小屋
槍平小屋
北アルプス山小屋
横尾山荘
横尾山荘
北アルプス山小屋
穂高平小屋
穂高平小屋
北アルプス山小屋
氷壁の宿・徳沢園
氷壁の宿・徳沢園
北アルプス山小屋
徳沢ロッヂ
徳沢ロッジ

穂高岳のアクセス

北アルプス登山口-アクセスと駐車場
上高地のアクセスと駐車場
上高地のアクセスと駐車場
北アルプス登山口-アクセスと駐車場
新穂高温泉のアクセスと駐車場
新穂高温泉のアクセスと駐車場

穂高岳の登山コース概要

① 奥穂高岳ルート

涸沢ヒュッテから奥穂高岳を望む。右手の尖った山は涸沢岳。
涸沢ヒュッテから奥穂高岳を望む。右手の尖った山は涸沢岳。

奥穂高岳は富士山、南アルプスの北岳について日本第3位の高峰です。奥穂高岳へは上高地から梓川をさかのぼり横尾から涸沢へ入り、ザイテングラードを登るのが一般的なルートになっています。

ザイテングラードには簡単な鎖場や短い梯子がありますが難易度は高くありません。穂高岳山荘から見上げた岩壁に2連で掛かった梯子と鎖場の登りが核心部です。

新穂高温泉を登山口とする場合、白出沢出合で槍ヶ岳方面を左に見送るルートは歩行時間が9時間ほどを擁すること、残雪が遅くまであること、沢筋で迷いやすい箇所があることなど、ルートを外し易いため登山初心者には不向きです。

北穂高岳、涸沢岳と共に涸沢カールのモレーンに建つ涸沢ヒュッテ、涸沢小屋などが宿泊の拠点となります。

又、穂高岳登山のベースキャンプとして休暇シーズンには一大テント村が出現します。特に夏のハイシーズンには1000人を超える登山者でごった返します。東京大学医学部診療所が7月下旬から8月下旬にかけて開設され、長野県警察による山岳警備隊が常駐します。

ここでは上高地から入るルートを紹介していきます。上高地バスターミナルから梓川に沿って左岸(右側)の短い方ルートを選択し、約1時間で明神館へ到着します。※右岸を通るルートを使うと約15分コースタイムが長くなります。

明神館から明神橋を渡って対岸の明神池に立ち寄りたいと思います。明神池までは一般の観光ルートになっている為、嘉門次小屋前のテラスはイワナ料理に舌鼓を打つ多くのハイカーで賑わいます。

嘉門次小屋の先に穂高神社奥宮が鎮座しています。穂高神社奥宮のすぐ奥に明神池があり、毎年十月八日には池にお船を浮かべて山の安全を神に感謝する御船神事が催されます。明神池は神域となっていて、どことなく霊験漂う不思議な雰囲気のある場所です。

明神池を後にして、再び梓川の左岸に沿って緩やかな登山道を進みます。徳澤園の前庭で一休みしたら出発です。

新村橋を左に見送り、横尾山荘前の吊り橋を渡って横尾谷に入ります。 左手に屏風ノ頭の岩壁である屏風岩を見ながら、横尾谷をなだらかに流れる梓川に支流の左岸(右側)を進むと、北穂高岳の山頂部が正面に見えてきます。

本谷橋の掛かる河原は休憩の絶好ポイントで、多くの登山者が疲れを癒しています。 本谷橋から登山道はやや傾斜がきつくなり、そして横尾本谷が右に分かれる所で大きく左方向に進路を変えます。ここで名前は涸沢谷に変わり、登山道の周りはナナカマドが多くなってきます。

右手から北穂高、中央に奥穂高岳、左手に前穂高を擁する涸沢カールに到着します。 涸沢までは比較的なだらかで、難所の無いハイキング感覚と言った登山です。

涸沢は氷河によって削られたU字谷で、日本最大のスケールを誇り、穂高岳登山のベースとなる場所です。涸沢ヒュッテ、涸沢小屋の二軒の山小屋と数百張り可能なテント場があります。ハイシーズンには涸沢に東京大学涸沢診療所、穂高岳山荘に岐阜大学医学部奥穂高夏山診療所が開設され、登山者の安全を守っています。

10月上旬にはナナカマドが真っ赤に色づき、穂高連峰の壁面を彩る様は、筆舌に尽くし難い日本有数の紅葉スポットです。
この時期には登山者ばかりではなく紅葉を撮影するために多くの人々が涸沢に訪れます。 そのため山小屋は一枚の布団に数名寝なければならないほど詰め込まれます。
(涸沢小屋は予約をしていれば比較的寝るスペースが確保されるようです。)

ザイテングラートへの取り付きへは涸沢ヒュッテを出発し、涸沢カールを左手に見ながらのパノラマコースか涸沢小屋前を通るコースを選択することができ、両コースは,直ぐに上部で合流します。

ザイテングラートの語源はドイツ語のseitengrat(支稜線・支尾根)を意味し、ここから岩嶺の本格的登りとなり穂高岳山荘まで続きます。

ザイテングラートの取り付きからハイマツの間の岩登りが始まります。 ハイマツ帯を抜けると正面に岩陵が見えてきます。
ここはザイテングラートの中で唯一梯子と鎖が設置されている場所です。 岩稜を右から巻くと鎖場が現れますが、十分なステップがあり、高度感もなく登山初心者でも難しくないと思います。 次いで短い梯子が掛けられていますが、ここも高度感は無く簡単に通過できます。 ここから穂高岳山荘までは草付きの緩い斜面の簡単な登りです。

奥穂高岳への核心部は穂高岳山荘から高度感のある高さ50mほどの岩壁の登りです。 二連で掛かる梯子までの岩場にはしっかりとしたスタンスがあり問題なく登れます。 梯子を登りきると右から巻く様に鎖が2か所に設置され緊張するところです。 しかし、難所は短いため、さほどの難易度ではないと思います。 ここを登りきると稜線に出て、比較的なだらかな岩陵を登ると奥穂高岳山頂へ到着します。

コースタイム

  • 登山:上高地~奥穂高岳 9時間30分
  • 下山:奥穂高岳~上高地 7時間10分

奥穂高岳ルートの難易度

難易度 5/10

体力  4/10( 1泊)

前穂高岳ルート

紀美子平は眼下に上高地を望みます。また吊尾根を経て奥穂高岳に向かう分岐点になっています。
紀美子平からは眼下に上高地を望みます。また吊尾根を経て奥穂高岳に向かう分岐点です。

前穂高岳の登山道となる重太郎新道の紀美子平のすぐ下の登り(下り)では、スラブ状の鎖場や長い鉄梯子がありますので悪天候時のスリップに注意を払ってください。

前穂高岳への登山口は上高地です。 上高地バスターミナルから河童橋を渡り梓川の左岸に沿って10分ほど遊歩道を歩くと前穂高岳登山道入り口 になります。

しばらく樹林帯を登った後、岳沢の右岸沿いに登り、水の干上がった岳沢を渡ると岳沢小屋に到着します。岳沢ヒュッテは2006年に雪崩で流された後、2010年の夏に経営者が変わり岳沢小屋としてオープンしました。

岳沢小屋のキャンプサイトの脇から重太郎新道が始まるとともに展望も効いてきます。
草の生い茂るジグザグの登山道を登り、ダケカンバの林となるところから重太郎新道の一回目の核心部となります。

岩場を這い上がると高さ7~8m斜度75度ほどの梯子が掛けられています。梯子に取り付く地点の足場が崩壊していて、滑落防止用のネットが張られ、鎖が岩壁に設置されています。

そして、まばらに生えたダケカンバの林を急登すると「カモシカ立場」という20人ほど休める開けた場所に出ます。 ここで、西穂から奥穂にかけての眺望を楽しみながら小休止し、右方向に草の間を登ります。

間もなく梯子が2連で架かっている場所に到着します。 この梯子は高度感は無く、難なく通過出来ます。この梯子を登りきると直ぐに傾斜は40度、長さ10mほどの鎖が設置された岩場に出ます。 この鎖場も高度感は無く、雨の日の下山時に使用するための鎖と考えたらよいと思います。 その後、高度感のない短い梯子や鎖場をやり過ごし、岳沢パノラマへ到着します。 ここまでが一回目の核心部といえます。

岳沢パノラマからは完全に展望が開き、吊尾根(奥穂~前穂の稜線)や前穂高岳が眼前に飛び込んできます。ここからの登りはハイマツ帯の岩の稜線沿いを時折岩登りを含めた高度感の無い比較的なだらかの登山道が紀美子平直前まで続きます。

紀美子平直前にはスラブ状(一枚岩状)の鎖場があり、ここが重太郎新道ルート2回目の核心部ということができると思います。傾斜40度ほどでさほどで傾斜はきつくありませんが、スラブ状になっているため雨天時のスリップには要注意です。

紀美子平は80名ほどが休憩できる開けた場所で、奥穂高岳へ向かう吊尾根と前穂高岳山頂に向かう分岐点でもあります。

紀美子平から前穂高岳までは岩登りの連続となりますが傾斜は緩く、高度感もない為、簡単に登頂できます。

コースタイム

  • 登山:上高地~前穂高岳 6時間00分
  • 下山:前穂高岳~上高地 4時間20分

前穂高岳ルートの難易度

難易度 4/10

体力  5/10 (日帰り)

北穂高岳ルート

北穂高岳
涸沢ヒュッテから北穂高岳を望む。 崖の影になるように涸沢小屋が建っています。

北穂高岳へは上高地から梓川を遡上し、横尾から涸沢へ入り南稜を登るのが一般的です。涸沢小屋の脇が登山道のスタート地点です 。

途中、一枚岩の鎖場がありますが、傾斜は40度ほどで高度感はなく難しくありません。その上部の岩壁をトラバースする箇所で、やや高度感のあるところが要注意箇所です。

北穂高岳への登山口は上高地です。 そこから梓川に沿って上がり、横尾山荘前で横尾谷に入ります。屏風ノ頭の東壁にある屏風岩を左手に見ながら進むと本谷橋に到着します。
ここから登山道は左に大きくカーブするとともに正面に北穂高岳山頂が東稜越しに見えてきます。

涸沢まで登ると正面には右から北穂高岳、中央に奥穂高岳、左に前穂高岳と日本屈指の山容である穂高連峰が眼前に現れます。涸沢まではなだらかな登りで、ハイキング感覚で登ることができます。

涸沢小屋の右手に北穂高岳への取り付きがあり、ここからが本格的な登りとなります。 登り始めは低い草の間に登山道はあり、夏の間は色とりどりの高山植物が咲き乱れる所です。

ハイマツ帯に入ると登山道はジグザグになり、大岩がゴロゴロしたごーろ帯を通過すると南稜の取り付きで核心部の鎖場となります。
傾斜40度ほどの一枚岩に鎖が設置されていますが高度感は無く難しくありませんが、雨の日などは滑るため注意が必要です。
鎖場を登りきると斜度60度ほどの梯子が設置されています。 この梯子を登ると南稜の稜線に飛び出します。

南稜の稜線上にあるザレた登山道は少し登ると見えてくる岩稜までは比較的なだらかです。岩稜には鎖が架かっていますがステップもしっかりあり、傾斜は緩いため高度感はありません。

鎖場を登りきった直後に右にトラバースします。ここにも鎖が設置されていてやや高度感があり、難しくはありませんが滑落すれば怪我では済まないかもしれないため2回目の核心部といえます。

少し登ると2つ目の鎖場です。最初は直登り、次にトラバースです。前回と同様、直登りの鎖場は高度感は無く難しくありませんが、次のトラバースする場所はやや高度感があり、難しくはありませんが滑落すれば怪我では済まないかもしれません。

ゴロゴロした岩を登りきると左手に北穂高岳南峰と右手に北峰が見えてきます。そこは 南陵テラスと呼ばれるや平坦な地形でキャンプ指定地があり、7月から8月上旬にかけてお花畑が広がります。

北穂高岳南峰直下では涸沢岳を経由して奥穂高へ通じる登山道を示す指導標を左に見送り、北穂高小屋が立つ北穂高岳北峰へ向かいます。

松濤岩の基部を回り込むようにして松濤岩のコルに出ます。松濤岩の名前は、登山家であった松濤明に由来します。松濤明は登山中に遭難し、その間に書き記した日記などから後に「風雪のビバーク (特選山岳名著シリーズ) 」という書物となって出版されました。

北穂高岳山頂からは深く切れ落ちた大キレットの先に槍ヶ岳がくっきりとその雄姿を見せていました。

コースタイム

  • 登山:上高地~北穂高岳 8時間10分
  • 下山:北穂高岳~上高地 7時間00分

北穂高岳ルートの難易度

難易度 4/10

体力  3/10 (1泊)

西穂高岳ルート

西穂高岳から望む奥穂高岳、右手に前穂高岳
西穂高岳から望む奥穂高岳、右手に前穂高岳

西穂高岳へは新穂高岳ロープーウェイを使うと日帰りも可能です。西穂独標までは登山初心者でも十分登頂可能です。

また、西穂独標からの急傾斜の岩下りで恐怖を感じなければ西穂高岳までは行けるでしょう。

上高地から西穂山荘へ登るルートは特に危険個所はありませんが、標高差が900m近くあるので体力を考慮して計画してください。

途中には北アルプスでは数少ない通年営業の西穂山荘があるので冬山登山も安心して楽しむことができます。

西穂高岳へは上高地の田代橋から東側を登り西穂山荘へ至るルートと新穂高ロープーウェイを使った2ルートがあります。

新穂高ロープーウェイを使えば日帰りも可能です。 ここでは新穂高ロープーウェイからのルートを案内します。

深山荘前には数百台駐車可能な新穂高温泉登山者用無料駐車場があります。シーズン中は、一杯になることが多く、鍋平園地駐車場(無料)へ駐車することも出来ます。鍋平園地駐車場と新穂高ロープウェイ中間駅のしらかば平駅までは徒歩25分です。詳しくは新穂高温泉へのアクセスと駐車場のページをご覧ください。

新穂高温泉登山者用無料駐車場から3分ほど林の中の細い道を歩くと車道に出られ、そこから5分ほどで新穂高ロープーウェイの駅に着きます。新穂高ロープーウェイは2本のロープーウェイを乗り継ぎます。
第一・第二乗り換え口の「しらかば平」にある新穂高ビジターセンター内の露天風呂に入るのもお勧めです。

第二ロープーウェイの降り口である西穂高口駅周辺は千石園地と呼ばれ、観光客用に遊歩道が整備されています。山頂駅から千石尾根を登ります。コメツガやオオシラビソが生い茂る原生林の中を1時間30分ほど登ると西穂山荘に到着します。その間時折、木々の間から左手前方に西穂高岳の稜線や南岳から伸びる主稜線の先に槍ヶ岳が望めます。

通年営業をしている西穂山荘の脇から西穂高岳に向け登山道が始まります。西穂山荘から少しの区間は急ですが、山頂が平らな丸山までは極めてなだらかな登りです。そして丸山からは若干傾斜がきつくなるものの、ハイマツ間の緩やかな登りが西穂・独標の岩陵直下まで続きます。

独標とは独立標高点を略したもので、北アルプスにおいては槍ヶ岳の北鎌独標が有名です。

西穂・独標山頂直下には鎖が設置されていますが傾斜は45~50度ほどでステップやホールドがしっかりあり、 高度感も無いので登山初心者でもここまでは不安無く登頂出来るでしょう。

西穂高独標(11峰)から順に10峰、9峰、8峰(ピラミッドピーク)、7峰、6峰、5峰、4峰(チャンピオンピーク)、3峰、2峰、主峰西穂高岳と小さなピークが連なり、この間が核心部です。

その中でも西穂高独標(11峰)からの下り、10峰からの下り、9峰へ向けてのやせ尾根の通過、そして特に9峰からの下りが最も高度感もあり足場も悪く危険です。 ここを過ぎるとあまり難しいところは無く、8峰(ピラミッドピーク)に到着します。

次いで7峰の直下にはトラバース用の鎖が設置されていますが高度感はありません。これ以後は4峰(チャンピオンピーク)などの小ピークを通過し、西穂高岳山頂直下のややキツイ斜面を登れば、 難なく西穂高岳へ登る事が出来ます。

山頂からは奥穂高岳から右側に続く吊尾根が見え、前穂高岳そして明神岳と続いています。北側に目をやると天を突くように尖った山頂は槍ヶ岳だとすぐ分ります。振り返ると右手側に笠ヶ岳、真下方面に見えるのが焼岳です。更に遠望に裾野を大きく広げた乗鞍岳が見えています。

西穂高岳から奥穂高岳にかけての稜線は北アルプスの中でも屈指の難所です。しかも距離が長い為、西穂山荘に宿泊し、早朝に出発することが必要です。西穂山荘の廊下のザック棚にはヘルメットが多数置かれているので落石も多いのでしょう。

コースタイム

  • 登山:新穂高ロープーウェイ西穂高口⇒西穂高岳 4時間30分
  • 下山:西穂高岳⇒新穂高ロープーウェイ西穂高口 3時間10分

西穂高岳ルートの難易度

難易度 5/10

体力  2/10 (日帰り)

吊尾根(前穂高岳~奥穂高岳)ルート

吊尾根は紀美子平と奥穂高岳を結ぶトラバース道で、上高地側の展望良好
吊尾根は紀美子平と奥穂高岳を結ぶトラバース道で、上高地側の展望良好

吊尾根(前穂高岳~奥穂高岳)の登山道は鎖などよく整備されていますが、すれ違い時、道が狭い所では上高地側への滑落には注意が必要です。

吊尾根は紀美子平から始まります。 紀美子平は前穂高岳へ登る起点ともなるちょうど良い休憩場所で、多くの登山者はザックをデポして空身で往復しています。

吊り尾根は主に上高地側に登山道が付けられ、全体的にトラバースといった道です。 トラバースとは言え、切り立った所は無く、登山道の幅も十分にあるため、高度感は無く緊張することなく、上高地側の眺望を楽しみながらの空中散歩ができるので、登山初心者でも無難にこなせるルートです。

紀美子平から、まずは簡単な岩登りから始まります。 その後トラバースが続きますが、登山道の谷側の傾斜は緩く高度感はありません。 常に上高地側は見え、眺望抜群です。

最低のコルと書かれた分岐点がありますが、一般道ではなくそのまま直進します。 最低のコルを過ぎたあたりから上高地とは反対側の涸沢方面が見えてきます。
こちら側はほぼ垂直に切り立っているため何もさえぎるものがなく、右手側には、前穂高岳から連なる北尾根や正面には、北穂高岳とその先の槍ヶ岳まで伸びる北アルプスの主稜線がくっきりと姿を現します。

最低のコルを過ぎて、ほどなくすると吊尾根の核心部と言える鎖場が登場します。 しかし、鎖場の傾斜は緩く(40度ほど)、高度感も無い為、難なく通過できます。その後、岩と岩との間に架かる短い鎖場が出てきますが、ここも同様に難しくありません。

南稜ノ頭からは、なだらかな登りで奥穂高岳山頂に到着します。 北アルプス最高峰の奥穂高岳山頂からの眺望は素晴らしく、西穂高岳から連なるバリエーションルートのランドマークとも言えるジャンダルムの頂に 立つ登山者を見ると、いつかは自分もという気持ちにさせられます。

コースタイム

  • 紀美子平→奥穂高岳 1時間50分
  • 奥穂高岳→紀美子平 1時間30分

吊尾根(前穂高岳~奥穂高岳)ルートの難易度

難易度 3/10

体力  1/10

涸沢岳・北穂~奥穂縦走ルート

穂高岳の一般道の中で最も険しい高度感のある鎖場が連続する核心部
穂高岳の核心部 一般道の中で最も険しい高度感のある鎖場が連続する

奥穂高岳と北穂高岳間の涸沢岳を通過するルートは、穂高岳の一般登山道の中で最難関です。特に涸沢岳から最低のコルまでの間は、急傾斜の鎖場の連続です。経験を積んでからチャレンジしてください。登山初心者の無謀なチャレンジは事故の元です。

穂高岳山荘を出発して涸沢岳へは傾斜の緩いなだらかな登りです。穂高岳山荘から見る涸沢岳は丸く穏やかな山に見えますが、反対側の北穂高岳から見るとまったく対照的で急峻で険しい岩稜の山です。

涸沢岳山頂からいきなり急傾斜の下りが始まります。下降点に立って下を見ると、ほぼ80度に近い崖に鎖が設置されています。こんな急斜面を降りるのかと思うと少し躊躇してしまいますが、実際に下って見るとスタンスがしっかりしていて意外と簡単です。その後も鎖場の連続でD沢のコルまで気の抜けない岩場が続きます。

D沢のコルはザックを下して休憩できるポイントです。そして涸沢槍に向け登り返します。涸沢槍は涸沢から見ると尖ったピークに見えますが、実際は山頂が左右に二つに割れ、その真ん中を通過するため簡単です。

涸沢槍山頂からの下りがこのルートの最大の難所で、傾斜がきつく高度感があり緊張する核心部です。涸沢槍から少し下ると傾斜はそれまでよりさらに増し、長い鎖や梯子が連続して架かっている上、浮き石や落石にも注意が必要な所です。

涸沢槍を下り切ると「ニセ涸沢のコル」という鞍部があり、ここもザックを下して休憩できる場所です。涸沢岳山頂からこの鞍部までが難易度が高く核心部と言ってよいでしょう。

鞍部から少し登りますが、そこは涸沢から見るとカメの甲羅の様な形をしているためカメ岩と呼ばれている部分です。
カメ岩通過は難しくありません。

カメ岩を下りきった所が最低のコルと呼ばれているこのルートで最も低い所です。ここで十分休憩を取って北穂高岳へ向け登り返します。
最低のコルから涸沢方面を見ると玉砂利の緩斜面が涸沢ヒュッテまで続いているように見えます。登山道ではありませんが、 エスケープが必要な時は歩いて下れそうです。

最低のコルから北穂高岳への登りはさほど難しくはありません。岩場を登り返すとザレ場となり、稜線の西側に回り込んでトラバースが続きますが高度感は無く難しくありません。

一か所に鎖場が現れますが、ところどころに鉄製のステップが打ってあり傾斜は緩く高度感も無い為、難なく通過できます。これまでよりさらに難易度が低い岩場を登り切ると北穂高岳南峰に飛び出します。

コースタイム

  • 穂高岳山荘⇒北穂高岳 2時間40分
  • 北穂高岳⇒穂高岳山荘 2時間20分

涸沢岳・北穂~奥穂縦走ルートの難易度

難易度 8/10

体力  2/10

パノラマコース-涸沢~上高地サブコース

屏風ノ耳から望む穂高連峰。左から前穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳です。

上高地と涸沢ヒュッテとを結ぶパノラマコースは、中間地点の「屏風の耳」から眺める穂高連峰や槍ヶ岳の展望は絶景です。

屏風のコルまで北面のトラバースが続き、8月上旬まで残雪がある年がありますので、山小屋(涸沢ヒュッテ、涸沢小屋)に確認する必要があります。

また、地図上では短く見えますが、実際はアップダウンが強く、累積標高差が1,300mを越える為、下山に使用するのが一般的です。

地図上では上高地への近道に見えますが、アップダウンが多くコースの険しいので、コースタイムは横尾経由よりもかかります。

屏風の耳からは、穂高連峰や槍ヶ岳のすばらしい大パノラマが展開します。パノラマコースは、涸沢から屏風のコルの間にルンゼが2つあり、年によっては8月上旬まで雪が残り通行できません。
下山時には涸沢ヒュッテたや涸沢小屋から直接情報を入手できますが、上高地から涸沢へ向かう時には山小屋に確認を取ってからにしてください。

パノラマコースは涸沢ヒュッテの直下から始まり前穂高北尾根の稜線に出るまでにロープや鎖、丸太の橋などがあるトラバースが続きます。

左手側が砂地の草付きの谷となっていて傾斜は最大でも50度ほどで高度感はありません。しかし、足場はあまり良くなく谷側の登山道が崩落しそうな個所もありますから、出来るだけ山側を歩く様にしてください。
途中、屏風のコルから屏風の耳への往復がおすすめです。

屏風の耳までは特に危険個所はありませんが、その先の屏風の頭まではやや危険個所があります。

屏風のコルから上高地までは危険個所は無く、南斜面となるため太陽の光を浴びながら梓川を目指して降りて行きます。慶応尾根に沿って下り、中畠新道分岐から奥又白谷に沿って下ると井上靖の小説「氷壁 (新潮文庫) 」のモデルとなった「ナイロンザイル事件」の慰霊碑が建っています。そして、梓川右岸の治山林道まで下ると新村橋はもうすぐです。

コースタイム

  • 登山:上高地~涸沢 7時間00分
  • 下山:涸沢~上高地 5時間50分

パノラマコース-涸沢~上高地サブコースの難易度

難易度 3/10

体力  2/10 (泊)

穂高岳の日帰り登山は出来る?

新穂高ロープーウェイを使って登る西穂高岳は標準的な登山者でも日帰り可能です。 

また、上高地を登山口とする前穂高岳は、標準的な登山者なら往復10時間30分ほどかかります。 上高地行きの始発のシャトルバスに乗れば、ギリギリ最終のシャトルバスに間に合います。

これ以外のコースは日帰り不可能です。

穂高岳の登山口近くの温泉

焼岳周辺に良質な温泉が沸く

穂高岳の隣にある焼岳は、現在でも噴火をしている活火山です。その周辺に、良質な泉質の温泉が湧き出る所が多数あります。

代表的な温泉が白骨温泉、新穂高温泉、平湯温泉などです。

深山荘

新穂高温泉 深山荘

深山荘は新穂高温泉の登山者用無料駐車場の近くにあります。 ハイシーズンには登山者用無料駐車場が一杯になることが多いので、深山荘に宿泊すれば、下山まで深山荘の駐車場を使えるので安心です。

高原川沿いに階段状になった複数の広い露天風呂は開放的です。

深山荘から新穂高ロープウェイまでは1.1 km、 徒歩13分です。

槍見の湯 槍見館

新穂高温泉 槍見の湯 槍見館

槍ケ岳を眺む絶景7種の露天風呂が高原川沿いにある秘湯の一軒宿です。
湯量豊富で源泉かけ流しです。

笠ヶ岳のクリヤ谷登山口は旅館のすぐ脇から始まります。

槍見館から新穂高ロープウェイまでは2.9 km 、徒歩 33分です。

上高地温泉ホテル

上高地温泉ホテル

梓川に沿って建つ上高地温泉ホテルは、登山基地として使用しても大変便利です。

文政年間(1830年代)に開湯され、三つの自家源泉を持つ源泉かけ流しの温泉です。温泉の効能により、湯上り後長時間に渡って体がポカポカし、心地よい眠気に誘われます。

白骨温泉

白骨温泉泡の湯

白骨温泉の中でも最も有名な温泉旅館です。

真っ白い硫黄の温泉が木樋から流れ落ちる大きな露天風呂が魅力的です 。

露天風呂は混浴ですが、男女別になっている露天風呂の入り口で、首まで浸かってから露天風呂に侵入すれば、お湯が白いため裸のままでも他人から見えません。

中の湯温泉旅館

中の湯温泉旅館

松本駅の無料送迎が利用できます。(予約制)

夏季
(4月下旬~11月中旬)上高地へのマイカー規制をしています。
4月下旬~11月中旬には、要望に応じて毎朝1便上高地までの送迎あり。(要予約)

冬季
上高地に行かれる方は釜トンネルゲートまで随時送迎があります。
また旅館周辺でもスノーシューで散策できます。
スノーシューの無料レンタルあり、(通常スノーシューレンタル一日分1500円)

穂高岳登山口の上高地に泊まる

上高地帝国ホテル

上高地帝国ホテル

上高地の中で最も高級なホテルです。 1泊2食付で1室2名で利用した場合の最低の部屋の料金は一人40000円以上です。

自宅(東京都内)と上高地間を帝国ホテルハイヤーにて送迎するプランもあります。中型車(クラウン・シーマ)で 210,000円です。

穂高岳の天気の特徴

快晴の上高地 遠景に奥穂高岳
快晴の上高地 遠景に奥穂高岳

穂高岳は晴天の確率が比較的高い

北アルプスの南部に位置する槍ヶ岳から穂高岳にかけての山域は、日本海側特有の冬型気候の影響を受けにくいため積雪量は多くありません。

また、北アルプスの中では比較的晴天に恵まれることが多いのも 特徴に挙げられます。

4月末のゴールデンウィーク前から山小屋がオープンし、11月上旬まで営業している山小屋が多くあります。 

7月の梅雨明けにはアイゼンなどの冬山装備は不必要になります。しかし、9月末で初冠雪を見る年もあり、雨天だけではなく、強風などにも天候には十分な注意が必要です。

山の天気予報は難しい
山の天気予報は難しい

お薦めの天気予報

テレビで流れる天気予報やネットで得られる無料の天気予報は、一般的に平地を対象としたものです。 そのため、晴れの天気予報が出ていても、山ではガスってしまうことはよくあることです。 

そこで、おすすめなのがtenki.jpの有料バージョン(+more)です。これは、月間100円と安いですが、高層天気の予報のため精度が高いです。また、山の天気予報(月額300円)を併用すると更に精度が高まります。

穂高岳の魅力

岩の殿堂・連続する高度感のある鎖場

穂高岳の魅力は何と言ってもこの岩だらけの山容と言えるでしょう。三点支持を確認しながら恐怖心に打ち勝ち、難易度の高い核心部を通過した時の達成感や満足感といったものは、なかなか他の山では得られないものです。

また、木々が全くない稜線上では、どこを歩いても展望抜群です。この二つの取り合わせが多くの登山者を惹きつけてやまないのだと思います。

涸沢の紅葉

標高約2,350mにある涸沢の紅葉の見頃は、9月31日、10月1日、10月2日、10月3日。この辺りの日が狙い目です。もちろん年によって変動するので、涸沢ヒュッテのホームページは要チェックです。

各種情報

穂高岳登山ツアー

  • 穂高岳|登山・トレッキングツアー

役場

温泉宿の問い合わせ

登山届提出

登山地図のスマホアプリ

  • 山と高原地図のスマホアプリ
    昭文社から販売されています。山と高原地図ホーダイ - 登山地図ナビアプリ 定額(500円/月 or 4800円/年)で61エリアの「山と高原地図」が使い放題。山と高原地図[地図単品購入版]地図1エリア 650円。

穂高岳山頂周辺の気温

最高気温平均気温最低気温
1月-12.4-16.4-20.3
2月-11.5-16.1-20.5
3月-6.9-12.5-17.2
4月1.0-5.9-11.9
5月6.4-0.8-6.9
6月9.83.2-1.9
7月13.16.72.3
8月14.88.03.2
9月9.73.8-0.6
10月3.5-2.7-7.5
11月-2.9-8.5-13.0
12月-9.3-13.7-17.3

穂高岳へ登るための装備と服装

軽アイゼン12本歯アイゼンピッケルサングラステント
1月×
2月×
3月×
4月×
5月
6月×
7月××××
8月××××
9月××××
10月××××
11月××
12月
必須:◎ あった方が良い:○ あったら良い:△ 必要ない:× 

服装や装備品のチェックリスト

登山地図必須 登山地図を忘れると道迷いの原因に!穂高岳はいたるところに分岐があります。 登山地図を持って行かないのは命取りと言えます。
レインウェア必須 山の天候は急変します。天気予報で晴が出ていても
レインウェアは必須です。また、防寒着としても使えます。
セパレートタイプの通気性と防水性を兼ね備えたゴアテックスがベストです。
帽子必須 稜線に上がると直射日光が強烈に降り注ぎます。涸沢ヒュッテ
の少し上で森林限界を超えます。日よけ用のつばが広く軽いものをお奨めします。寒さが厳しいときは、耳を覆うニット製、冬山ではフルフェイスタイプをお奨めします。
日焼け止め必須 穂高岳は3000メートルを超えているため、 日光を遮る木々が一切ありません。森林限界を超えると紫外線が強いので必帯です。
飲料水必須 天気の良い日は少し多めに持って行きましょう。
水場が豊富にあり、山小屋での確保も可能です。
登山行程に合わせて水の量を調整するとよいでしょう。
ヘッドランプ必須 夜になると電気を落としてしまう山小屋もあります。そんな時トイレに行くのが不自由です。また、暗い内から山頂まで登り、御来光を拝むためにも必要です。
行動食必須 穂高岳の核心部ではゆっくりと座って食べられる場所がないところもあります。パン・ナッツ類・野菜ジュース、飲むヨーグルトなど立ち休憩で食べられるものがお薦めです。
パックカバー必須 ザックが濡れないようにするためのザックカバーは雨に日には絶対必要です。ザックカバーも雨衣と同様に防水性が衰えてきます。
時折、防水スプレーをするなどのメンテナンスが必要です。
救急薬品必須 切り傷、擦り傷にカットバン、絆創膏を持っていくと良いでしょう。虫刺され薬品も。登山行程が長く体力を必要とするところが多いので、
トクホンのような筋肉痛に効く貼り薬。
ティッシュペーパー必須 登山中いきなりしたくなってしまった場合など、万が一の時のために必帯です。ポケットティッシュを水で濡らし耳栓として使う場合にも有効です。
防寒着必須 薄手のフリース,セーター、軽いダウンジャケット。
穂高岳山頂では、7~8月でも最低気温が3度ほどに下がることがあります。
軽くて保温性の高いものを選びます。ゴアテックスのレインウェアを
その上に着ると更に保温性が高まります。
手袋必須 鎖場や岩場で、三点支持で登る時に使います。革製の手袋がベストですが、軍手でもOKです。
耳栓あったら良い 穂高岳は山中の山小屋で最低でも一泊するコースがほとんどです。山小屋では大部屋が基本です。就寝時に いびきをかく人が必ずいます。耳栓の効果は絶大です。
カメラあったら良い 山旅の思い出にぜひどうぞ。核心部の鎖場での撮影には片手で操作出来る軽いタイプの一眼レフカメラが向いています。ウエストポーチに収納出来る大きさであることが望ましいです。
ビニール袋あったら良い ごみ入れとして、使用前の下着入れ、使用後の下着入れとして7~8個あると便利です。
保険証(コピー)あったら良い 事故や遭難時に必要です。
サブザックあったら良い 穂高岳山荘や紀美子平にザックを置いて、身軽な状態で登ることが出来ます。水、カッパなど必要最低限が入る軽いコンパクトなものを使用すること。
シュラフカバーあったら良い遭難時や混雑している山小屋(一つの布団に2人)で役に立ちます。毛布2枚を床に敷きゴアテックス製のシュラフカバーに入ります。

穂高神社里宮の御船祭り

毎年9月26日、27日に穂高神社にて開催される御船祭
毎年9月26日、27日に穂高神社にて開催される御船祭

安曇野氏は北九州地方を発祥の地とする古代貴族で、海洋神である穂高見神を祖神として奉斎していた海洋民族です。後に東の方へ進出し、安曇野の地に土着し栄えたようです。

海とは関わりのない安曇野の地において、御船祭が行われるのは「安曇野」の地名の元になった安曇野氏との深い関わりがあるからです。

御船祭は毎年9月26日、27日に、穂高神社において行われる長野県の無形文化財に指定された祭りです。

稚児浦安の舞と穂高太鼓が神楽殿にて奉納され、時代絵巻を思わせる穂高人形が飾り付けられた三艘の子供船と二艘の「御船」が町内を練り歩きます。

午後3時30分頃になると二艘の「御船」は穂高神社境内に入り、ぶつかり合う勇壮な神事が行われます。

穂高神社里宮の御船祭り

穂高神社御船神事

上高地の明神池で催される穂高神社御船神事
上高地の明神池で催される穂高神社御船神事

穂高岳神社奥宮は明神岳のたもとの上高地明神池湖畔に鎮座しています。毎年10月8日には竜頭鷁首(りょうとうげきしゅ)を付けた二艘のお船を明神池に浮かべて雅楽を奏で、御幣を保持しながら一之池を一周する御船神事が催されます。これは、山の安全と神の恵みを神に感謝するお祭りです。

お船は平安朝の頃、上流貴族の中でよく用いられたもので、竜は水を渡るのに最も早きもの、鷁は風に耐えゆるに最も強きものとされます。

穂高神社の神域にある明神池は、針葉樹林帯に囲まれ、荘厳な雰囲気が辺りを包み込んでいます。ひょうたん型の形で、手前は一之池、奥は二之池と呼ばれています。 イチョウバイカという珍しい水草やイワナ、マガモが生育しています。

上高地明神池の穂高神社御船神事

穂高神社と穂高岳の関わり

穂高神社の神楽殿と拝殿

本殿は拝殿の後方にあり、中殿・左殿・右殿が並び建つ三殿方式です。 推定樹齢500年以上の霊力があるとされる孝養杉が拝殿の前に伸びています。

穂高神社の嶺宮遥拝社

穂高神社嶺宮は、奥穂高岳頂上に祀られています。平成28年穂高神社式年遷宮を記念して、穂高見命が天降った山頂の嶺宮を改築しました。

旧社を奥穂高岳山頂に向けて本宮に祀り、遥拝所としました。山の自然と恩恵に感謝し、国の平安と登山の安全、家内の安泰を祈る場所です。

長野県安曇野市穂高の地に穂高神社本宮は

鎮座しています。奥宮は、上高地の明神池の畔に建っています。そして、近世になって奥穂高岳の山頂に、白い石造りの小祠が穂高神社の嶺宮として置かれました。奥穂高岳は、海の神、綿津見神(わたつみのかみ)の子である穂高見神(ほたかみのかみ)が山頂に降臨したと伝えられる山です。高い山に海神とは不思議な取り合わせですが、「安曇野」の地名と深い繋がりがあります。

穂高神社は、中世からは神仏習合であったため、別当寺である神宮寺が建っていたといわれています。 穂高神社の創建は不明ですが、古代に遡ります。安曇野の地名はこの神社を奉斎していた安曇氏に由来しています。安曇氏は、北九州あたりを発祥の地とし、その周辺で活躍した海人で、時代が下ると共に日本各地に進出した一族です。

毎年9月27日に行われる御船祭(御船神事例大祭)は、船型の山車に穂高人形を飾った大小5艘の「御船」をぶつけ合う勇壮な祭りです。海が無い信州にもかかわらず、御船渡しの神事が行われるのは、安曇族が海の民であったことを伝えています。

穂高神社の御祭神は穂高見命(穂高見神)で海の神なのであるが、いつしか山の神である日本アルプス総鎮守、海陸交通守護の神となった経緯は不明です。

参考文献:名山の文化史

穂高岳の初登頂者は播隆上人か?

日本各地の高く険しい山のほとんどは、

古代から中世にかけて修験者達によって登頂されていました。しかし、穂高岳は人跡未踏で、初登頂された正確な記録が残るのは明治になってからです。

しかし、槍ヶ岳山荘を経営していた穂苅貞雄氏の「槍ヶ岳開山・播隆」によれば、「文政11年(西暦1828年)7月に槍ヶ岳登頂を果たした播隆上人は、同年8月1日に穂高岳へも登った。しかし、どのルートから、どの峰に登ったのかは不明で、7峰の内の一つであったと思われる。」と記しています。

ちなみに、江戸時代において上高地へ入るには飛騨新道又は島々から徳本峠を越えて明神池のほとりに出る二つのルートがありました。

飛騨新道は、安曇野市三郷小倉を起点にして鍋冠山から八丁ダルミの稜線を進み、大滝山を越えて梓川に下り、上高地から中尾峠を越え、新穂高温泉の中尾に至るルートです。文政3年(西暦1820年)に着工して、完成したのは天保6年(西暦1,835年)です。