笠ヶ岳とは

笠ヶ岳(標高2898m)は岐阜県の最高峰で、北アルプスの主稜線から西側に少しずれた孤高の山です。

その名が示す通り、どこから見ても笠の形をした端正な形をしています。

その中でも、双六岳から望む笠ケ岳は、鋭角に天を突く三角錐の岩峰がより強調され、登山者を魅了する山岳美と迫力を合わせ持っていると言えます。

深田久弥は迷うことなく百名山の一つに選んでいます。

三角点のある最高点を大笠と呼び、笠ヶ岳山荘の裏側の小山が小笠です。山頂の東側にはカール地形の播隆平がありますが、一般道は付いていません。

笠ヶ岳は主要な縦走路から外れている為、シーズン中でも槍ヶ岳や穂高岳などに比べ登山者の数は比較的少なく、静かな山登りを楽しむことができるかもしれません。

笠の形をした笠ヶ岳

双六岳近くから笠ヶ岳を撮影
双六岳近くから笠ヶ岳を撮影

笠ヶ岳山頂に至る登山ルートは二つあり、奥飛騨温泉郷の一番奥に位置する新穂高温泉を起点として左俣林道を歩き笠新道を登るルート、中尾高原口を起点とし槍見館の裏を登山口とするクリヤ谷に沿って登るルートです。

共に、標高差が大きく健脚者向きコースといってよいでしょう。

笠ヶ岳の地図

笠ヶ岳の山小屋

北アルプス山小屋
笠ヶ岳山荘(かさがたけさんそう)
笠ヶ岳山荘
北アルプス山小屋
わさび平小屋
わさび平小屋

笠ヶ岳のアクセス

北アルプス登山口-アクセスと駐車場
新穂高温泉のアクセスと駐車場
新穂高温泉のアクセスと駐車場

笠ヶ岳の登山コース概要

① 笠新道ルート

笠新道分岐から笠ヶ岳を目指す
笠新道分岐から笠ヶ岳を目指す

笠新道は多くの登山者で賑わうルートです。標高差はクリヤ谷ルートと変わりませんが、笠新道登山口近くのワサビ平小屋に前夜泊すれば、次の日のコースタイムが短くなります。

笠新道に入りジグザグに切られた急斜面を登り、標高2,000m辺りで樹林が途切れると展望が開けます。振り返ると槍ヶ岳から穂高岳にかけての眺望が素晴らしく、秋にはナナカマドの紅葉も楽しめます。

又、体力に自信のない登山者は左俣林道をそのまま遡上し、小池新道を経て鏡平小屋に宿泊し、弓折岳から南下して登頂を目指すコース設定が向いているかもしれません。

笠新道途中の杓子平まで上がると、高山植物のお花畑が織りなす大きな庭園のようなカール地形が広がります。そして、カール地形の左手奥に目指す笠ヶ岳の雄大な山頂が姿を現します。 急坂を頻繁にジグザグを切りながら高度を上げてきた苦労が報われる瞬間でもあります。

盛夏の頃までカール上部では雪渓から流れ出る清流の音が心地よく響き、喉を潤すことも出来ます。

笠新道分岐のある抜戸岳からは比較的平坦な稜線が笠ヶ岳山荘まで続きます。まさに天空漫歩という言葉がぴったりのトレイルです。

新穂高温泉バスターミナルから蒲田川を渡り左俣林道に入ります。 笠新道登山口まで3.5kmを約1時間歩く新穂高温泉バスターミナルから10分ほどでケートがあり、一般車両はここまでです。

シーズン中の土日になると林道沿いの路肩には所せましとマイカーが停められています。 笠新道登山口までは約3.5kmあり、左俣林道を約1時間歩くと到着します。 笠新道登山口にはわさび平から引き水された水場があり、急坂に備え十分な水を確保します。

登山口からのブナ林の単調な登山道は、やがて針葉樹林へと樹相が変わり、標高2,000m辺りで樹林が途切れ、振り返ると槍ヶ岳から南に連なる急峻な山頂を連ねる穂高岳が姿を現します。
ナナカマドが混じる低木の間をジグザグに登ると、平坦地で休憩最適地の杓子平に到着します。 杓子平はお花畑が広がるカール地形で、左手方向には目指す笠ヶ岳とそこからに連なる抜戸岳の雄大な風景が望める 場所となっています。

抜戸岳南尾根を右から巻くようにカールをジグザグに登って行きます。 夏場まではカール上部の残雪から流れ落ちる雪解け水を飲料水として使うことができます。

稜線上の登山道と合流した地点が笠新道分岐で、右方向は弓折岳から双六岳へと通じる稜線で、左方向は笠ヶ岳への登山道となっています。

笠新道分岐からは比較的平坦な稜線歩きが続き、岩の間を通過する抜戸岩を過ぎた辺りからやや傾斜は増し、テント場の先には笠ヶ岳山荘が 建ち、その左前方に笠ヶ岳の山頂が近づいて来ます。

笠ヶ岳山荘からは石屑の登山道を登ると15分ほどで笠ヶ岳山頂です。 山頂の一角には仏像が安置がされた小祠が祀られています。 山頂からは360度の絶景が広がります。

コースタイム

  • 登山:新穂高温泉駐車場→笠ヶ岳 7時間30分
  • 下山:笠ヶ岳→新穂高温泉駐車場 6時間20分

笠新道ルートの難易度

難易度 1/10

体力  3/10 (1泊)

クリヤ谷から笠ヶ岳ルート

南西尾根の手前で一休憩

クリヤ谷を遡上するコースは累積標高差が2,000m以上で、登山道には岩がゴロゴロし、木の根が覆い、滑りやすく大変歩きにくい登山道が続きます。

その為、コースタイムは約10時間と長い上、途中に山小屋が無く、体力に自信のない人には勧められません。

また、クリヤ谷を4回渡り返す必要があり、増水時は通行できない場合があるので、事前に高山警察署新穂高臨時派出所・登山指導センターTEL:0578-89-3610または笠ヶ岳山荘TEL:090-7020-5666にコース状況の確認が必要です。

新穂高温泉・中尾高原口の公衆トイレが完備した駐車場(約40台)にマイカーを停め登山スタートです。  蒲田川に架かる橋からは、その真下に無料で入浴できる露天風呂の「新穂高の湯」が見えています。 槍見館の裏から登山道が始まり、登山口には登山届のポストが設置されています。

樹林帯の登りがしばらく続き、穴滝を過ぎた直後にクリヤ谷の沢を渡ります。 増水時には渡れないことがあります。

クリヤ谷の沢を渡って少し登ると左側の展望が開け、標高2,168mの錫杖岳(しゃくじょうだけ)から連なる南尾根の岩稜帯が見えてきます。 その中でもエボシ岩などはロッククライミングの対象となっています。

錫杖岳の岩稜を眺めながら背の高い笹の中を登ると、登山道の左手に水場らしき所があります。 しかし、そこには水場を示す指導標の様なものは無く、小川の様に水が流れています。 さらにそこから30分ほど登った登山道の右側に水が流れている所があります。 この場所が正式な水場の様ですが、どちらも飲料には問題ないと思われます。

水場を過ぎると傾斜は増し、きつい登りになります。 しかし、クリヤノ頭の下に広がる岩稜帯の景観は美しく疲れを癒してくれます。
クリヤノ頭のすぐ下で振り返ると大きく展望が開けていて、正面には焼岳が同じくらいの高さに見え、その奥に乗鞍岳、さらにその奥には御嶽山までが見渡せています。 ここまで登山口からの標高差が約1,500m、コースタイムは6時間30分ほどの行程です。

クリヤノ頭から笠ヶ岳へ伸びる稜線の西側をトラバースするように進みます。 雷鳥岩辺りから登山道はごつごつした岩やハイマツの根に覆われ、歩きにくく進行スピードが鈍くなります。

足場の悪いトラバースを終え、笠ヶ岳山頂と思しきピークが見えてくると次第に傾斜は増していきます。
ハイマツ帯の登りは、疲れた体には堪える所です。
笠ヶ岳山頂と思ったのは偽ピークで、偽ピークから伸びる稜線の先に見える山頂まで30分ほどの登りがまだ残っています。 平らな石が折り重なった山頂直下の岩場を越えると笠ヶ岳山頂に到着です。

コースタイム

  • 登山:新穂高温泉・中尾高原口→笠ヶ岳 9時間50分
  • 下山:笠ヶ岳→新穂高温泉・中尾高原口 8時間10分

クリヤ谷から笠ヶ岳ルートの難易度

難易度 1/10

体力  4/10 (1泊)

③ 弓折岳~抜戸岳~笠ヶ岳縦走ルート

弓折岳~抜戸岳~笠ヶ岳縦走ルート
弓折岳から抜戸岳への稜線

準備中

弓折岳~抜戸岳~笠ヶ岳縦走ルートの難易度

難易度  /10

体力  /10

笠ヶ岳の日帰り登山は出来る?

新穂高温泉から笠新道を使っての笠ヶ岳ピストンの標準コースタイムは14時間です。 クリヤ谷コースではさらに時間がかかります。

したがって、どちらのコースを使っても日帰りは難しいと言わざるを得ません。

笠ヶ岳の登山口近くの温泉

笠ヶ岳の近くにある焼岳は、現在でも噴火をしている活火山です。その周辺に、良質な泉質の湯量豊富な温泉が湧き出る場所が多数あります。

代表的な温泉に白骨温泉、新穂高温泉、平湯温泉などがあります。

深山荘

新穂高温泉 深山荘

深山荘は新穂高温泉の登山者用無料駐車場の近くにあります。 ハイシーズンには登山者用無料駐車場が一杯になることが多いので、深山荘に宿泊すれば、下山まで深山荘の駐車場を使えるので安心です。

高原川沿いに階段状になった複数の広い露天風呂は開放的です。

深山荘から新穂高ロープウェイまでは1.1 km、 徒歩13分です。

ホテル穂高

新穂高温泉 ホテル穂高

新穂高ロープウェイのすぐ下にあります。庭園露天風呂の泉質は単純硫黄泉で湯量豊富で源泉かけ流しです。

JRや バスによるアクセスが可能です。

登山道の左俣林道へのアクセスも良好です。

槍見の湯 槍見館

槍見の湯 槍見館

槍ケ岳を眺む絶景7種の露天風呂が高原川沿いにある秘湯の一軒宿です。
湯量豊富で源泉かけ流しです。

笠ヶ岳のクリヤ谷登山口は旅館のすぐ脇から始まります。

槍見館から新穂高ロープウェイまでは2.9 km 、徒歩 33分です。

白骨温泉

白骨温泉 泡の湯

白骨温泉の中でも最も有名な温泉旅館です。

真っ白い硫黄の温泉が木樋から流れ落ちる大きな露天風呂が魅力的です 。

露天風呂は混浴ですが、男女別になっている露天風呂の入り口で、首まで浸かってから露天風呂に侵入すれば、お湯が白いため裸のままでも他人から見えません。

各種情報

笠ヶ岳登山ツアー

  • 笠ヶ岳|登山・トレッキングツアー

役場

温泉宿の問い合わせ

登山届提出

登山地図のスマホアプリ

  • 山と高原地図のスマホアプリ
    昭文社から販売されています。山と高原地図ホーダイ - 登山地図ナビアプリ 定額(500円/月 or 4800円/年)で61エリアの「山と高原地図」が使い放題。山と高原地図[地図単品購入版]地図1エリア 650円。

笠ヶ岳山頂周辺の気温

最高気温平均気温最低気温
1月-10.1-14.5-19.1
2月-9.3-13.9-19.2
3月-5.0-10.6-15.6
4月3.4-3.7-9.8
5月8.82.1-3.9
6月11.86.11.3
7月15.09.75.5
8月16.710.86.3
9月11.76.42.2
10月5.8-0.3-9.9
11月-0.2-6.1-11.4
12月-6.6-11.6-16.0

笠ヶ岳へ登るための装備と服装

軽アイゼン12本歯アイゼンピッケルサングラステント
1月×
2月×
3月×
4月×
5月×
6月××
7月××××
8月××××
9月××××
10月××××
11月××××
12月
必須:◎ あった方が良い:○ あったら良い:△ 必要ない:× 

服装や装備品のチェックリスト

登山地図必須 登山地図を忘れると道迷いの原因に!笠ヶ岳の登山ルートは稜線上で多くの分岐が出てきます。
レインウェア必須 山の天候は急変します。天気予報で晴が出ていても
レインウェアは必須です。また、防寒着としても使えます。セパレートタイプの通気性と防水性を兼ね備えたゴアテックスがベストです。
帽子必須 杓子平で森林限界を超えます。稜線に上がると直射日光が強烈に降り注ぎます。日よけ用のつばが広く軽いものをお奨めします。寒さが厳しいときは、耳を覆うニット製、冬山ではフルフェイスタイプをお奨めします。
日焼け止め必須 森林限界を超えると直接日光が降り注ぐため紫外線が強いので必帯です。
飲料水必須 天気の良い日は少し多めに持って行きましょう。笠新道登山口に豊富な水量の水場があります。 夏場までは杓子平上のカールの雪解け水を飲料水として使うことができます。
ヘッドランプ必須 夜、電気が切れてしまう山小屋もあります。笠ヶ岳山頂で御来光を迎えるために、暗いうちから登るために必要です。
トイレに行くのに不自由です。
行動食必須 コースタイムが長いので少し多めの行動食を持っていくと良いでしょう。
パン・ナッツ類・野菜ジュース、飲むヨーグルトなど立ち休憩で食べられるもの。
パックカバー必須 ザックが濡れないようにするためのザックカバーは雨に日には絶対必要です。ザックカバーも雨衣と同様に防水性が衰えてきます。時折、防水スプレーをするなどのメンテナンスが必要です。
救急薬品必須 切り傷、擦り傷にカットバン、絆創膏を持っていくと良いでしょう。虫刺され薬品、笠ヶ岳の登山道は体力勝負なのでトクホンのような筋肉痛に効く貼り薬。
ティッシュペーパー必須 登山中いきなりもよおした場合など、万が一の時のために必帯です。ポケットティッシュを水で濡らし耳栓として使う場合にも有効です。
防寒着薄手のフリース,セーター、軽いダウンジャケット。笠ヶ岳山頂では、7~8月でも最低気温が5度ほどに下がることがあります。軽くて保温性の高いものを選びます。ゴアテックスのレインウェアをその上に着ると更に保温性が高まります。
耳栓あったら良い 笠ヶ岳山荘では大部屋が基本です。就寝時に いびきをかく人が必ずいます。耳栓の効果は絶大です。
カメラあったら良い 山旅の思い出にぜひどうぞ。弓折岳~抜戸岳~笠ヶ岳縦走ルートの展望は抜群です。ウエストポーチに収納出来る大きさであることが望ましいです。
ビニール袋あったら良い ごみ入れとして、使用前の下着入れ、使用後の下着入れとして7~8個あると便利です。
保険証(コピー)あったら良い 事故や遭難時に必要です。

播隆上人による笠ヶ岳再興

播隆上人

播隆上人像
松本駅前の僧播隆上人像

1986年(昭和61年)8月に、彫刻家の上條俊介の手によるブロンズ製の「僧播隆上人像」が完成し、JR 松本駅東口に建立されました。

笠ヶ岳でブロッケン現象を目撃

播隆上人が見たであろうブロッケン現象
播隆上人が見たであろうブロッケン現象

播隆上人は、笠ヶ岳の山頂でブロッケン現象を目撃したと思われます。

笠ヶ岳の開山がいつなのか明確な資料が無い為、

はっきりとは分かりません。史実として確実なのは江戸時代になってからです。

「円空仏」で有名な円空によって初登頂され、大日如来像を山頂に安置したと「大ヶ嶽之記」に記されています。

※ 円空仏の拝観は岐阜県高山市の飛騨千光寺で可能です。

次いで、円空の登山から90年後の天明2年(西暦1782年)7月に飛騨高山の宗猷寺の僧・南裔(なんねい)上人が笠ヶ岳の山頂を踏み、仏像(阿弥陀、薬師、不動、大日尊)と鉄札を奉納しました。

円空や南裔は、ともに登山道を開くことはせず、その後登山者は絶えることになります。 それから30数年後の文政5年(西暦1822年)に再興したのが槍ヶ岳開山で有名な播隆上人です。

偵察登山で 山頂に立った播隆上人は、笠ヶ岳と相対して天を突いて聳える穂高岳や槍ヶ岳の迫力ある景観に魅了されます。そこで登山道を開くことを決意するのです。

今見氏の協力を得て、わずか50日で登山道を整備してしまいます。登山道が完成したのは文政6年(西暦1823年)7月29日のことです。 そして、その年の8月5日、18名の同行者と共に再び笠ケ岳の山頂に立ちます。

山頂に小祠を作り、村人と共に担ぎ上げた銅製の仏像を安置するためでした。そこで、一心に念仏を唱えていると、不思議なことに虹色の輪の中に阿弥陀仏が雲の中から出現したというのです。

これはまさにブロッケン現象を目撃したということであり、「ありがたき思い言葉に尽くし難し」と伝えられています。

播隆上人は、再興を行った際、八体の石仏を登山道に道標として安置したといわれています。そのうちの三体が「上宝ふるさと歴史館」に保管されています。

同館では更に、僧・播隆上人が使用したとされる錫杖や20数体の円空仏が保管・展示されています。また、槍ヶ岳山頂にかつて存在していた祠のレプリカを見ることも出来ます。

参照:名山の文化史

※ 円空仏-円空(えんくう)は、江戸時代前期・元禄年間の行脚僧であり、全国に「円空仏」と呼ばれる独特の作風を持った鉈による木彫りの仏像を沢山残したことで知られる。