黒部五郎岳とは

北アルプスの最深部に位置する黒部五郎岳(標高2,840m)は非対称山稜を形成しています。三俣蓮華岳方面から望む山容は、ダイナミックで秘境を感じさせるのに対し、折立を登山口とする北ノ俣岳側から望むそれは、ハイマツに覆われたたおやかな山腹を見せ女性的とも言えます。

南北に流れる黒部川を挟んで東側に後立山連峰が、西側に剱岳、立山から南へ伸びる稜線が並走しています。両者は三俣蓮華岳で合流し、槍ヶ岳、穂高岳へと連なっています。 黒部五郎岳(中ノ俣岳)は、剱岳、立山、薬師岳と連なる立山連峰の最南端に位置する名峰で、深田久弥は日本百名山に選定しています。

黒部源流地域は北アルプスの中にあって最も奥深い山域になりますが、雲の平、三俣蓮華岳、薬師岳など比較的穏やかな山容を呈しています。これは、広大な源流域に当たるため、雨水等による浸食の影響を強く受ける中流、下流に比べあまりその影響を受けなかったことが原因と言われています。一方、黒部五郎岳はそれらの山々とは対照的に、巨大なカール壁の崩壊が進みダイナミックな姿をしています。

山名の由来

山名の「五郎」は、山岳用語の「ゴーロ」つまり、ゴロゴロした石が多く存在する所という意味で、黒部村にある山であることから黒部五郎岳という名が付いたとされています。 (岐阜県側の山麓にある神岡での呼び名は中ノ俣岳です。)

また、同様に水晶岳・鷲羽岳の東方に野口五郎岳がありますが、野口村の石がゴロゴロした山という所からこの名が付いたとされています。歌手の野口五郎は、この山の名前を芸名にした様です。

コース全体に鎖場などの難所はなく、登山初心者向きと言えますが、黒部五郎岳までのアプローチが長く、最短の折立登山口からでも一泊は最低でも必要です。

新穂高温泉からアプローチする場合には、双六小屋で一泊、黒部五郎小舎で2泊の合計2泊3日の行程が必要です。

新穂高温泉と折立間を縦走する場合には、折立でのバスの本数が少なく時間的制約を受けます。しかも折立には公衆電話が無く、携帯が通じないのでバスに乗り遅れるとタクシーを呼ぶことさえ出来ません。

折立に下山する場合、午後12時30分の最終のバスに間に合わないと判断したら、太郎平小屋でタクシーの予約を事前に済ませておく必要があります。

また、折立から下流に1時間30分ほど歩いた所に有峰ハウスの公共の宿があるので宿泊を検討するのも一法です。

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黒部五郎岳の地図

黒部五郎岳の山小屋

北アルプス山小屋
わさび平小屋
わさび平小屋
北アルプス山小屋
鏡平山荘
鏡平山荘
北アルプス山小屋
双六小屋
双六小屋
北アルプス山小屋
黒部五郎小舎
黒部五郎小舎
北アルプス山小屋
太郎平小屋
太郎平小屋

黒部五郎岳のアクセス

北アルプス登山口-アクセスと駐車場
新穂高温泉のアクセスと駐車場
新穂高温泉のアクセスと駐車場

黒部五郎岳の登山コース概要

① 新穂高温泉から双六岳~三俣蓮華岳ルート

三俣蓮華岳からの黒部五郎岳
三俣蓮華岳からの黒部五郎岳

新穂高温泉から黒部五郎岳まで登山コース上には鎖場などの難所はありません。 しかし、往復で23時間程のロングコースです。

登山ルートには双六小屋、黒部五郎小舎、鏡平山荘、わさび平小屋などの山小屋があるので、体力に合わせて宿泊計画を立てるとよいでしょう。

今回は双六小屋から黒部五郎岳までを紹介します。

新穂高温泉を登山口として、双六岳及び三俣蓮華岳を経由し黒部五郎岳へ登るルートを紹介します。

ここでは双六小屋からルート案内をします。※ 新穂高温泉から双六小屋までのルートについては、槍ヶ岳の西鎌尾根ルートをご覧ください。

双六岳及び丸山を通過しない巻き道ルートが三俣蓮華岳へ通じていますが、やはり展望良好な双六岳及び丸山を通って行くことをお薦めします。特に、双六岳の広い稜線から振り返る槍・穂高岳の峻険な姿は大変見事です。

また、南側に目を転じると鋭角的で峻嶺峨々として聳える笠ケ岳は、おそらくこの位置から見る姿が最も美しく見えるのではないでしょうか。僅か30分ほどのコースタイム超過になるだけなので、ここを外しては余りにももったいないと感じます。

三俣蓮華岳山頂に立つと鷲羽岳・水晶岳・雲ノ平など黒部源流の山々の全貌がパノラマのように広がります。更に、鷲羽岳の右手奥に裏銀座縦走コースの野口五郎岳、雲ノ平の台地の左手後方には裾野を大きく広げた薬師岳もよく見えます。

三俣蓮華岳から黒部五郎岳登山の拠点となる黒部五郎小舎までは、背の低いハイマツが覆い尽くす広い稜線を降ります。正面に黒部五郎岳が近づくにつれ、黒部五郎カールの壁面を覆う羊背岩がはっきりと見え、それまで小ぶりに見えていた山から雄大でダイナミックさを感じる山へと変貌していきます。

黒部五郎小舎が建つ五郎平は、池塘が点在する草原が広がり、7月の終わりになると、辺り一面をコバイケイソウの白い花が埋め尽くします。

黒部五郎小舎から黒部五郎岳を目指すルートは、黒部五郎カールを登るルートと稜線ルートの二つがありますが、やはりお薦めは黒部五郎カールルートです。今回は、下山時に稜線ルートを使って黒部五郎小舎まで降ります。

山小屋から山頂までは約1時間50分見れば登頂出来ます。黒部五郎カール内に入ると雪渓から流れ出す清冽な流れが憩いの場を提供してくれます。カール壁に張り付くように幾重にも折り重なった羊背岩が作り出す景観は、まさに天上の楽園と呼ぶに相応しいものです。

コバイケイソウが咲く草付きの急斜面をひと頑張りすれば黒部五郎岳の肩へ上がります。北ノ俣岳方面分岐を右手に見送ると5分ほどで黒部五郎岳山頂です。

山頂で展望を楽しんだら稜線ルートを下ります。山頂近くは狭い稜線に沿って登山道が付けられています。カール壁側は鋭く切れ落ちていますから滑落しないように慎重に通過します。次第に台地状の広い稜線に変わり、チングルマやハクサンイチゲなどが咲く歩きやすい道に変わります。僅かに残った雪渓を通過し、灌木帯を下ると黒部五郎小舎です。

稜線ルートは、昭文社の地図では破線で描かれていますが、特に難所はなく、登山初心者でも問題無く歩くことが出来ます。

コースタイム

登山:新穂高温泉→双六小屋 6時間40分、双六小屋→黒部五郎岳 5時間10分 合計:11時間50分

下山:黒部五郎岳→双六小屋 5時間40分、双六小屋→新穂高温泉 5時間30分 合計:11時間10分

新穂高温泉から双六岳~三俣蓮華岳ルートの難易度

難易度 2/10

体力 4/10 (2~3泊)

折立から北ノ俣岳ルート

北ノ俣岳からの黒部五郎岳
北ノ俣岳からの黒部五郎岳

標高1350mの折立登山口から黒部五郎岳までは標高差1500mを徐々に登り上げていきます。 これといった急登もなく、アップダウンもあまりありません。

北ノ俣岳から黒部五郎岳は広い稜線を進みます。 黒部五郎カールの全容を見るためには山の反対側に下る必要があります。山頂と黒部五郎小舎との往復は約3時間です。必然的に黒部五郎小舎に宿泊することになります。

黒部五郎岳への最短ルートです。登山口の折立から標高1870mの三角点の少し下までが針葉樹林帯の登りで、森林限界を超えた後は、展望の開けた天空漫歩といった趣のあるトレイルです。ほぼ均等に高度を上げ、急登は黒部五郎岳山頂直下の300mほどの区間のみです。

コース全体として非常によく整備され、太郎兵衛平までの区間は約500メートルごとにベンチが設置されています。

見どころは太郎山の先の池塘。池塘の先にどっしりと構える薬師岳の眺望に圧倒され、北ノ俣岳手前ではハクサンイチゲの群落に癒され、チングルマの群落に囲まれた北ノ俣岳からは雲ノ平及び鷲羽岳・水晶岳など黒部源流の山々に堪能します。

もっとも傾斜がきついのは、黒部五郎岳西面のザレた斜面で、その100m程をジグザグに登れば、肩の分岐です。肩の分岐からは黒部五郎岳カール全体を見渡せます。

肩の分岐から5分ほどで山頂です。山頂からピストンで戻るのはもったいないので、やはり黒部五郎岳カール内を歩きたいものです。そのためには黒部五郎小舎に泊まる必要があります。小屋の収容人員は約60名と小さいため、人気の山だけあって多くの登山者が訪れています。特にハイシーズンでは小屋での宿泊は混雑を覚悟してください。

コースタイム

登山:折立→太郎平小屋 3時間55分 太郎平小屋→黒部五郎岳 3時間45分 合計7時間40分

下山:黒部五郎岳→太郎平小屋 3時間25分 太郎平小屋→折立 2時間30分  合計5時間55分

折立から北ノ俣岳ルートの難易度

難易度 1/10

体力  2/10 (泊)

黒部五郎岳は日帰り登山が出来る?

最短で登れる折立登山口からであっても黒部五郎岳の往復には13時間40分が必要です。つまり標準的な登山者なら日帰りは不可能です。 黒部五郎小舎に一泊するのが一般的です。

黒部五郎岳の登山口近くに沸く温泉

焼岳周辺に良質な温泉が沸く

穂高岳の隣にある焼岳は、現在でも噴火をしている活火山です。その周辺に、良質な泉質の温泉が湧き出る所が多数あります。

源泉かけ流しの代表的な温泉は白骨温泉、新穂高温泉、平湯温泉などです。

深山荘

新穂高温泉 深山荘

深山荘は新穂高温泉の登山者用無料駐車場の近くにあります。 ハイシーズンには登山者用無料駐車場が一杯になることが多いので、深山荘に宿泊すれば、下山まで深山荘の駐車場を使えるので安心です。

高原川沿いに段々畑の様に配置された複数の広い露天風呂は開放的です。

深山荘から新穂高ロープウェイまでは1.1 km、 徒歩13分です。

ホテル穂高

新穂高温泉 ホテル穂高

新穂高ロープウェイのすぐ下にあります。庭園露天風呂の泉質は単純硫黄泉で湯量豊富で源泉かけ流しです。

JRや バスによるアクセスが可能です。

登山道の左俣林道へのアクセスも良好です。

槍見の湯 槍見館

新穂高温泉 槍見の湯 槍見館

槍ケ岳を眺む絶景7種の露天風呂が高原川沿いにある秘湯の一軒宿です。
湯量豊富で源泉かけ流しです。

笠ヶ岳のクリヤ谷登山口は旅館のすぐ脇から始まります。

槍見館から新穂高ロープウェイまでは2.9 km 、徒歩 33分です。

白骨温泉

白骨温泉泡の湯

白骨温泉の中でも最も有名な温泉旅館です。

真っ白い硫黄の温泉が木樋から流れ落ちる大きな露天風呂が魅力的です 。

露天風呂は混浴ですが、男女別になっている露天風呂の入り口で、首まで浸かってから露天風呂に侵入すれば、お湯が白いため裸のままでも他人から見えません。

黒部五郎岳登山で晴天を掴む天気予報

山の天気予報は難しい
山の天気予報は難しい

お薦めの天気予報

テレビで流れる天気予報やネットで得られる無料の天気予報は、一般的に平地を対象としたものです。 そのため、晴れの天気予報が出ていても、山ではガスってしまうことはよくあることです。 

そこで、おすすめなのがtenki.jpの有料バージョン(+more)です。これは、月間100円と安いですが、高層天気の予報のため精度が高いです。また、山の天気予報(月額300円)を併用すると更に精度が高まります。

黒部五郎岳の魅力

黒部五郎カール壁を作る羊背岩

1万年以上前の氷河期、山頂付近で発達した氷河が山腹をスプーンで削った様な地形・圏谷(けんこく)を作り出しました。 

氷河によって削られた岩石は羊背岩と呼ばれ、その研磨作用によって表面は滑らかで、幾筋もの亀裂が入っています。又、岩礫が幾つにも折り重なって、点在していることから羊群岩とも呼ばれています。

男性的で雄大な黒部五郎のカールは、まさに天上の庭園と呼ぶににふさわしく、日本百名山の著者・深田久弥は「青天井の大伽藍」と称賛しています。

五郎平に点在する池塘とコバイケイソウ

黒部五郎カール底部にはモレーンも認められ、湧き水や雪解けの清冽な流れを作り出し、五郎平へ注いでいます。そして五郎平に点在する池塘の周りには、梅雨明けと共にコバイケイソウの群落が白い花を付け、アルペンムード漂う景観を作り出します。

各種情報

黒部五郎岳登山ツアー

  • 黒部五郎岳|登山・トレッキングツアー

役場

温泉宿の問い合わせ

登山届提出

登山地図のスマホアプリ

  • 山と高原地図のスマホアプリ
    昭文社から販売されています。山と高原地図ホーダイ - 登山地図ナビアプリ 定額(500円/月 or 4800円/年)で61エリアの「山と高原地図」が使い放題。山と高原地図[地図単品購入版]地図1エリア 650円。

黒部五郎岳山頂周辺の気温

最高気温平均気温最低気温
1月-9.9-14.3-18.9
2月-9.1-13.7-19.2
3月-4.8-10.4-15.5
4月3.6-3.5-9.5
5月9.02.8-3.8
6月12.08.51.6
7月15.29.85.8
8月17.011.06.4
9月12.06.72.5
10月6.1-0.2-1.1
11月0.1-5.9-8.3
12月-6.4-11.5-13.1

黒部五郎岳へ登るための装備と服装

軽アイゼン12本歯アイゼンピッケルサングラステント
1月×
2月×
3月×
4月×
5月
6月×××
7月××××
8月××××
9月××××
10月××××
11月×××
12月
必須:◎ あった方が良い:○ あったら良い:△ 必要ない:× 

服装や装備品のチェックリスト

登山地図必須 登山地図を忘れると道迷いの原因に!黒部五郎岳へ至る登山道はいたるところに分岐があります。 登山地図を持って行かないのは命取りと言えます。
レインウェア必須 山の天候は急変します。天気予報で晴が出ていても
レインウェアは必須です。また、防寒着としても使えます。
セパレートタイプの通気性と防水性を兼ね備えたゴアテックスがベストです。
帽子必須 稜線に上がると直射日光が強烈に降り注ぎます。太郎平小屋や鏡平山荘を超えると展望が開け樹林帯を抜けます。日よけ用のつばが広く軽いものをお奨めします。
日焼け止め必須 稜線歩きが長いので日光を遮る木々がほとんどありません。
森林限界を超えると紫外線が強いので必帯です。
飲料水必須 水場は多くの場所にあります。とはいえ天気の良い日は少し多めに持って行きましょう。黒部五郎岳カール内でも水が取れます。
ヘッドランプ必須 何かの原因で夜の行動を余儀なくされた場合や日が昇る前からの出発には必要です。
行動食必須 登山日程が複数に及ぶため、かなり多めに行動食を持って行くことをお勧めします。
パックカバー必須 ザックが濡れないようにするためのザックカバーは雨に日には絶対必要です。ザックカバーも雨衣と同様に防水性が衰えてきます。
時折、防水スプレーをするなどのメンテナンスが必要です。
救急薬品必須 切り傷、擦り傷にカットバン、絆創膏を持っていくと良いでしょう。虫刺され薬品も。黒部五郎岳は体力勝負の山なので筋肉痛などに備えてトクホンなどを持っていくと良いでしょう。
ティッシュペーパー必須 登山中いきなりしたくなってしまった場合など、万が一の時のために必帯です。
防寒着必須 薄手のフリース,セーター、軽いダウンジャケット。
7月8月の夏場でも6°c近くまで下がることがあります。それに相当した防寒着を持っていくと良いでしょう。
手袋あったら良い 岩登りを行う場所はありませんが、革製の手袋がベストですが、軍手でもOKです。
カメラあったら良い 山旅の思い出にぜひどうぞ。北アルプスの最深部の絶景や雄大な黒部五郎岳カールなどを撮影してください。
ビニール袋あったら良い ごみ入れとして、汗を大量にかいた時の使用前の下着入れ、使用後の下着入れとして6,7数枚あると便利です。
保険証(コピー)あったら良い 事故や遭難時に必要です。