薬師岳とは

薬師岳は立山連峰の南部に位置する巨大な山体が特徴的な山で、長大な尾根を持ち北アルプス最大のスケールをほこり悠然として堂々としています。

信仰の山であった薬師岳。 奈良時代から平安時代には、修験者が山岳修行を行う霊場として立山周辺の山々(大日岳、剱岳、別山、雄山、浄土山)から南下して薬師岳を超えて有峰に入り鍬埼山を経て下山するという極めて厳しい入峰路があったと言います。

剱岳や大日岳では修験者が奉納した、奈良時代後期から平安時代初期のものと思われる銅錫杖頭が発見され、入峰路の存在の裏付けとなっています。

これらの遺品は国の重要文化財になって、立山博物館に所蔵されています。

薬師岳の地図(位置)

薬師岳の山小屋

北アルプス山小屋
薬師岳山荘
薬師岳山荘
北アルプス山小屋
太郎平小屋
太郎平小屋
北アルプス山小屋
スゴ乗越小屋
スゴ乗越小屋
北アルプス山小屋
五色ヶ原山荘
五色ヶ原山荘

薬師岳のアクセス

北アルプス登山口-アクセスと駐車場
扇沢のアクセスと駐車場
扇沢のアクセスと駐車場

見る場所によって山容が大きく違う薬師岳

標高は2926mと僅かに3000mには及ばないものの、一見なだらかなその姿は女性的で「北アルプスの女王」あるいは「北アルプスの貴婦人」と形容されています。

しかし、非対称山稜を示す薬師岳の東側から北側は、男性的なダイナミックな姿に変わり、特に雲の平のスイス庭園から眺める薬師岳は彫りが深く大変印象的に映ります。

特に注目すべきは国の特別天然記念物に指定されている薬師岳の圏谷群です。三つのカール(金作谷カール、中央カール、南稜カール)が薬師岳の東斜面に南北に並び、黒部川上ノ廊下に落ち込んでいます。 洪積世氷河の浸食作用によってスプーン状に削られたものです。

薬師岳の登山コース概要

折立から入り立山まで縦走する3泊4日の行程を紹介します。1日目は太郎平小屋泊、2日目は薬師岳を越えてスゴ乗越小屋泊、3日目は越中沢岳を超えて五色ヶ原山荘泊、4日目はザラ峠に降り、獅子岳、龍王岳を越えて立山へ抜けます。

1日目に薬師岳山荘に宿泊すればスゴ乗越小屋をパスして五色ヶ原まで抜ける2泊3日の行程も十分に可能です。

折立から薬師岳ルート

薬師岳山荘からの薬師岳 山頂は左手奥にあります。
薬師岳山荘からの薬師岳 山頂は左手奥にあります。

薬師岳登山だけの場合、折立(標高1350m )からのピストンが一般的です。岩場や鎖場などはなく、北アルプス入門コースと言えます。

北薬師まで足を伸ばせば、金作谷カールの雄大な姿を目にすることが出来ます。

コースタイム

  • 登山 折立⇒太郎平小屋:3時間15分、太郎平小屋⇒薬師岳:2時間40分 合計 5時間55分
  • 下山 薬師岳⇒太郎平小屋:2時間15分、太郎平小屋⇒折立:2時間35分 合計 4時間50分

折立から薬師岳ルートの難易度

難易度  1/10

体力  4/10 日帰り

薬師岳から五色ヶ原縦走ルート

越中沢岳からの立山 ↓五色ヶ原山荘
越中沢岳からの立山 ↓五色ヶ原山荘

折立から薬師岳~立山縦走ルートの難所を揚げるならば、薬師岳と北薬師岳間の狭い尾根に岩場の通過があります。しかし強風が吹かない限り危険ではありません。

又、ザラ峠から獅子岳への登りに梯子と鎖場がありますが、高度感はさほどなく、登山初心者でも十分可能です。

しかし、このルートにはエスケープルートがありません。十分な体力と天候の見極めが重要です。

コースタイム

  • 薬師岳⇒スゴ乗越小屋:2時間20分、スゴ乗越小屋⇒五色ヶ原山荘:5時間。
  • 参考:五色ヶ原山荘⇒立山室堂:3時間50分。

※ 休憩時間は含めません。

※ 立山室堂(標高2420m)を登山口として、南下して折立(標高1350m )へ向かう逆のコースを辿る場合、下りが多くなるのでコースタイムは10%ほど短縮されると思います。

薬師岳から五色ヶ原縦走ルートの難易度

難易度 3/10

体力  2/10 (泊)

薬師岳は日帰り登山が可能か?

薬師岳に登る最短ルートは折立を登山口とする場合です。標高差は1600mあり、コースタイムはピストンで10時間45分です。

標準的な登山者なら決して不可能とまでは言えませんが、 太郎平小屋か薬師岳山荘に宿泊する方が無難と言えます。

マイカーなら問題ありませんが、登山バスを使う場合には、折立の最終便が12時30分でであることも留意する必要があります。

7月中旬から9月下旬までの季節運行で、9月に入ると土日祝日のみの運行なので間違わないでください。

バス 富山-有峰線

薬師岳登山口の立山の温泉

地獄谷の温泉

地獄谷では高圧蒸気が噴煙を上げ、硫黄を含んだ白く濁った高温の温泉が湧き出ています。温泉は引き湯管で付近の山小屋へ引かれています。

みくりが池温泉

みくりが池温泉

みくりが池温泉は室堂ターミナルから徒歩15分の所にある日本最高所の天然温泉です。左手の三角形の屋根の建物が、眼下の地獄谷から引湯管を利用して350mを引湯しています。
源泉温度54.3度、毎分80Lの湧出量の硫黄を含んだ白く濁った温泉です。
加水、加温は行われず、源泉から引き上げられた湯が常時浴槽に注がれています。

内風呂のみで露天風呂はありませんが、標高2,500mで入る硫黄泉は大変魅力的です。

背後は立山の一角別山です。その左後ろに、剱岳の山頂と稜線が僅かに見えています。

雷鳥荘

雷鳥荘

雷鳥荘は室堂ターミナルから徒歩30分の所にあります。源泉かけ流しの温泉は噴煙が立ち昇る地獄谷から引き湯しています。内湯のみで露天風呂はありません。

地獄谷から山小屋に引かれる温泉は、乳白色の硫黄の温泉です。日帰り入浴が出来ますから、時間が許せば立ち寄ってみる価値はあります。

背景に見えるのは大日岳です 。

立山に泊まる

立山ホテル

ホテル立山

営業期間:4月中旬から11月下旬。
ホテル立山は、立山黒部アルペンルートの終点である室堂ターミナルに併設されているため大変便利です。

毎日夕方4時頃から、ホテルスタッフによる周辺の『散策案内』、夕食後は、立山の四季などを撮影したスライドやビデオ上映会、夜9時頃からの星空観察会などが催されています。

弥陀ヶ原ホテル

弥陀ヶ原ホテル

営業期間:4月10日前から11月上旬。
弥陀ヶ原ホテルは立山道路に面して建ち、ラムサール条約に登録された弥陀ヶ原を展望できる好立地です。

ホテル前にはバス停がありますが、立山室堂から遊歩道を下って2時間弱で歩くことも可能です。 

また、ホテルから立山カルデラ展望台までの所要時間は往復で約40分です。

立山高原ホテル

立山高原ホテル

営業期間:4月下旬から11月上旬。
立山高原ホテルは立山道路の(標高約2,300m)天狗平バス停近くに位置しています。

立山室堂まで遊歩道を歩けば約40分程で着きます。立山室堂周辺の山小屋・ホテルが一杯の時でも空いているかもしれません。

黒部アルペンルート扇沢の近くに泊まる

ANAホリデイ・インリゾート信濃大町くろよん

ANAホリデイ・インリゾート信濃大町くろよん

黒部アルペンルートの扇沢駅まで9km、12分の立地です。

葛温泉から引いたかけ流しの天然温泉の露天風呂があります。

JR信濃大町駅までは無料シャトルバス(予約制、定期便)あります。

北アルプスのスゴ乗越小屋で遊ぶオコジョ

薬師岳のカール(圏谷)群

薬師岳のカール群とは

薬師岳の東面には、南から南稜カール、中央カール、金作谷カール、北カールと大規模な圏谷が四つ並んでいます。これは、立山の山崎カールを発見した山崎直方によって圏谷群と同定されたものです。

その後、昭和20年(1945年)2月22日に国の天然記念物、昭和27年(1952年)3月29日に特別天然記念物に指定されました。

ただし、北カールについては形が不明瞭なため、研究者によっては氷河地形として認めていない者も少なくありません。

南カールは、カール底の高度は2600m。カール内には植生に覆われた岩石氷河が存在しています。しかし、登山道から見る事は出来ません。

※ 岩石氷河とは、氷に富む永久凍土がクリープして出来る舌状もしくはロープ状の岩屑地形のことです。世界各地の山岳地帯に分布していて、化石化したものは日本アルプスでも多数見つかっています。

南沢岳から見た薬師岳のカール群

烏帽子岳北側の南沢岳から望む薬師岳圏谷群。北カールは、谷状になっていてカールとしての要件を十分に満たしていないように見えますね。

中央カールと金作谷カール

中央カールは、薬師岳の山頂から東側眼下に望めます。カール底の高度は2700m、薬師岳の圏谷群の中で最大です。カール底には岩石氷河が存在しています。

カールの背後に赤牛岳から水晶岳、鷲羽岳と続く稜線があり、更にその背後に槍ヶ岳や穂高岳などが見えています。

金作谷カールは、カール底の高度は2650mで、カール内にM字状岩屑地形が認められます。研究者により、最終氷河期後期のモレーン、或いは完新世のモレーンとする説。一方で、岩石氷河とする説に分れます。M字状岩屑地形の背後に氷河が発達するのに十分な空間が無いことから岩石氷河とする説が有力です。

金作谷カールの写真は、薬師岳辺りから撮ったもので、左手から右手方向に連なる稜線のピークが北薬師岳です。

薬師岳の山岳信仰

薬師岳山頂の薬師堂に祀られた薬師如来

薬師岳山頂の薬師堂に祀られた薬師如来
薬師岳山頂の薬師如来


薬師岳山頂には薬師如来と山の神を祀った小祠が、周囲を石積みで守られるように鎮座しています。

この小祠は麓の富山県大山観光協会によって再建されたものですが、古くから有峰集落の人々によって信仰登山が行われていました。

北アルプスの薬師岳の開山祭は、6月上旬の土曜日に行われます。富山市亀谷(大山)の播隆上人像公園で開かれ、 富山市大山上野の大川寺の住職が仏事を執り行い、北野市大山総合行政センター所長、富山南署長、富山市観光協会など山岳関係者など50名ほどが集まり、夏山登山の安全を祈願します。

開山祭に合わせて記念登山が行われ、ガラスの箱に納められた金色に輝く薬師如来像が、冬の間、大川寺で保管されていたものを、住職と富山県の観光課の職員、山岳関係者などによって薬師岳山頂の薬師堂に納められます。そして、閉山式の際、再び大川寺に戻されます。

薬師如来像は、たびたび盗難にあったため、山頂の薬師堂は鍵が架けられ、冬の間は大川寺で保管することになったという経緯があります。

有峰集落の「岳の薬師祭」

人造湖の有峰湖の湖底に沈んだ有峰集落

江戸時代中期頃から平家の落人部落としても知られる有峰集落では、毎年旧暦6月15日(現在の7月下旬)の「岳の薬師祭」に於いて、15歳~50歳の男達全員で薬師岳へ信仰登山を行っていました。

もっとも、厳重な女人禁制の決まりがあり、女性の登拝は許されていませんでした。

その際、鉄板を長さ12cm~30cmくらいの大小様々な剣の形に切った「鉄剣」を山上の御堂に奉納して祈ったと言います。

「鉄剣」は次第にうず高くなり、「剣塚」を作ったと言います。 その後、登山者達がその鉄剣を持ち帰り、現在では鉄塚を目にすることはできません。

深田久弥も日本百名山の書籍の中で「形の良い鉄剣を選んで持ち帰り文鎮として使っている。」と記載しています。

残念ながら高まる電力需要に応えるため有峰集落は、大正9年に廃村となります。昭和34年、電源開発のため和田川を堰き止めた有峰ダムが完成し、人造湖の有峰湖の湖底に沈んでしまったからです。

各種情報

薬師岳登山ツアー

  • 薬師岳|登山・トレッキング・温泉ツアー

役場など

登山届提出

登山地図のスマホアプリ

  • 山と高原地図のスマホアプリ
    昭文社から販売されています。山と高原地図ホーダイ - 登山地図ナビアプリ 定額(500円/月 or 4800円/年)で61エリアの「山と高原地図」が使い放題。山と高原地図[地図単品購入版]地図1エリア 650円。

薬師岳山頂周辺の気温

最高気温平均気温最低気温
1月-10.4-13.8-19.4
2月-9.6-13.2-19.7
3月-5.4-9.9-16.0
4月3.3-4.0-10.0
5月8.52.3-4.2
6月11.58.01.1
7月14.79.35.3
8月16.510.56.0
9月11.56.22.0
10月5.6-0.7-1.6
11月-0.4-6.4-8.8
12月-6.9-12.0-13.6

薬師岳へ登るための装備と服装

軽アイゼン12本歯アイゼンピッケルサングラステント
1月×
2月×
3月×
4月×
5月
6月×××
7月××××
8月××××
9月××××
10月××××
11月×××
12月
必須:◎ あった方が良い:○ あったら良い:△ 必要ない:× 

* 黒部アルペンルートの開通期間は4月~11月です。

服装や装備品のチェックリスト

登山地図必須 登山地図を忘れると道迷いの原因に!ロングコースの場合にはなおさらです。自分の今いる場所がどこか分からなくなるのは命取りになることも!
レインウェア必須 セパレートタイプの通気性と防水性を兼ね備えたゴアテックスが
ベストです。防寒着としても使えます。撥水性が悪くなるので定期的なメインテナンスが必要です。
帽子必須 標高1870mの三角点辺りで草木などの日差しを遮るものがなくなります。夏山のハイシーズンでは日よけ用のつばが広く軽いものをお奨めします。
日焼け止め必須 森林限界を超えている縦走路では、直接日光がダイレクトに
降り注ぐため紫外線が強いので必帯です。
飲料水必須 太郎平小屋、薬師峠キャンプ場、スゴ乗越小屋、五色ヶ原山荘に十分な量の水場があります。登山計画に合わせて少し多めの水を持っていくことをお勧めします。
ヘッドランプ必須 縦走路においては早立ちや日が暮れてからの山小屋への到着などが考えられるのでヘッドランプは必須です。
行動食必須 コンビニでいくつか買っていくと便利です。二泊三日以上の日程になる場合は多めの行動食が必要となります。 
パックカバー必須 雨が降った時に備えてザックが雨に濡れ無い様に
するためにカバーするものです。ザックカバーもレインウェアーと
同様に防水性が衰えてきます。時折、防水スプレーをするなどの
メンテナンスが必要です。
救急薬品必須 切り傷、擦り傷にカットバン、絆創膏を、虫刺され薬品、
トクホンのような筋肉痛に効く貼り薬を持っていくと良いでしょう。
ティッシュペーパー必須 登山途中で急にしたくなった時に便利です。 また、山小屋でいびきをかく人もいます。ティッシュペーパーを丸めて耳栓代わりに使うこともできます。
防寒着薄手のフリース,セーター、軽いダウンジャケット。薬師岳では、
7~8月でも最低気温が5度ほどに下がることがあります。
軽くて保温性の高いものを選びます。ゴアテックスの
レインウェアをその上に着ると更に保温性が高まります。
アイゼン4月末から5月上旬のゴールデンウィーク辺りで登山する場合、
まだ多くの残雪があるため12本歯のアイゼンが必要です。
手袋薬師岳から立山に抜けるルートには岩登りなどの要素はありませんが手袋は念のため持っていくと良いでしょう。 
耳栓あったら良い 各山小屋では混雑時には大部屋になることがあります。
就寝時にいびきをかく人が必ずいます。耳栓の効果は絶大です。
カメラあったら良い 薬師岳のカール群、五色ヶ原から見る立山は絶景です。
稜線上の大展望など撮影スポット満載です。
ビニール袋あったら良い ゴミ袋として重宝します。
使用前の下着入れ、使用後の下着入れとして10枚あると便利です。

愛知大学山岳部の遭難事故

愛知大学山岳部員を供養する慰霊塔(十三重之塔)

愛知大学山岳部員を供養する慰霊塔(十三重之塔)
折立登山口から数分登った左手に建立されています。

薬師岳山頂近くに建てられたケルン

ケルンは昭和39年10月、愛知大学並びに遭難学生遺族の協力により、二度と遭難が繰り返されぬよう祈りと願いを込めて建てられたものです。

遭難事故の経緯

1968年の冬、 

愛知大学山岳部の部員13人が遭難死する事故が起きています。猛吹雪で下る尾根を間違い、東南稜を下ってしまった事が原因です。

90名以上の捜索隊が結成され陸上及び空から捜索が行われましたが、豪雪のため救助には至りませんでした。

3月23日になってようやく五遺体を発見、全ての遺体が発見されたのは10月14日になってからです。冬季に限らず、山頂部は砂礫に覆われて、遮るものは何も無く、濃霧時には道迷いが発生しやすいので注意が必要です。

折立登山口近くに家族や関係者などによって愛知大学山岳部員を供養する慰霊塔(十三重之塔)が建てられました。

この事故を教訓に富山県では、昭和40年山岳警備隊を結成し、翌年には富山県登山届出条例の制定をすることとなります。