日本アルプス登山ルートガイド > 北アルプス > 薬師岳 > 折立〜薬師岳〜五色ヶ原
折立〜薬師岳〜五色ヶ原の縦走ルート概要
薬師岳の概要
薬師岳は立山連峰の南部に位置する巨大な山体が特徴的な山で、長大な尾根を持ち北アルプス最大のスケールをほこり悠然として堂々としています。標高は2926mと僅かに3000mには及ばないものの、一見なだらかなその姿は女性的で「北アルプスの女王」あるいは「北アルプスの貴婦人」と形容されています。
しかし、非対称山稜を示す薬師岳の東側から北側は、男性的なダイナミックな姿に変わり、特に雲の平のスイス庭園から眺める薬師岳は彫りが深く大変印象的に映ります。
特に注目すべきは国の特別天然記念物に指定されている薬師岳の圏谷群です。三つのカール(金作谷カール、中央カール、南稜カール)が薬師岳の東斜面に南北に並び、黒部川上ノ廊下に落ち込んでいます。 洪積世氷河の浸食作用によってスプーン状に削られたものです。
登山コース案内
薬師岳登山だけの場合、折立(標高1350m )からのピストンが一般的です。岩場や鎖場などはなく、北アルプス入門コースと言えます。しかし、標高差が1600m近くあり、初心者にとって日帰りは難しく、太郎平小屋か薬師岳山荘に宿泊する1泊2日の行程となります。北薬師まで足を伸ばせば、金作谷カールの雄大な姿を目にすることが出来ます。
今回は、折立から入り立山まで縦走する3泊4日の行程を紹介します。1日目は太郎平小屋泊、2日目は薬師岳を越えてスゴ乗越小屋泊、3日目は越中沢岳を超えて五色ヶ原山荘泊、4日目はザラ峠に降り、獅子岳、龍王岳を越えて立山へ抜けます。
1日目に薬師岳山荘に宿泊すればスゴ乗越小屋をパスして五色ヶ原まで抜ける2泊3日の行程も十分に可能です。
各区間のコースタイムを記載します。登山計画に役立ててください。
折立⇒太郎平小屋:3時間15分、太郎平小屋⇒薬師岳:2時間40分、薬師岳⇒スゴ乗越小屋:2時間20分、スゴ乗越小屋⇒五色ヶ原山荘:5時間、五色ヶ原山荘⇒立山室堂:3時間50分。合計17時間5分。※休憩時間は含めません。
立山室堂(標高2420m)から入り、南下して折立(標高1350m )へ下山する逆のコースを辿る場合、下りが多くなるのでコースタイムは10%ほど短縮されると思います。
難所を揚げるならば、薬師岳と北薬師岳間の狭い尾根に岩場の通過がありますが、強風が吹かない限り危険ではありません。又、ザラ峠から獅子岳への登りに梯子と鎖場がありますが、高度感はさほどなく、登山初心者でも十分可能です。しかし、このルートにはエスケープルートがありません。十分な体力と天候の見極めが重要です。
※折立へのアクセスは、富山地方鉄道株式会社がバスを運行しています。7月中旬から9月下旬までの季節運行で、9月に入ると土日祝日のみの運行ですから間違わないでください。
※ 五色ヶ原から立山室堂へのルートも参照してください。
各種問い合わせ
富山市大山総合行政センター 電話:076-483-1211
富山市観光協会 電話.076-439-0800
登山届の提出
富山県警察 電子申請が可能です。
登山地図のスマホアプリ
山と高原地図のスマホアプリが昭文社から販売されています。月額版:料金月400円、通常版:地域1エリア500円。
スゴ乗越小屋で遊ぶオコジョの動画
山岳信仰の山であった薬師岳
信仰の山、薬師岳
。
奈良時代から平安時代には、修験者が山岳修行を行う霊場として立山周辺の山々(大日岳、剱岳、別山、雄山、浄土山)から南下して薬師岳を超えて有峰に入り鍬埼山を経て下山するという極めて厳しい入峰路があったと言います。剱岳や大日岳では修験者が奉納した、奈良時代後期から平安時代初期のものと思われる銅錫杖頭が発見され、入峰路の存在の裏付けとなっています。これらの遺品は国の重要文化財になって、立山博物館に所蔵されています。
現在、薬師岳山頂には薬師如来と山の神を祀った小祠が、周囲を石積みで守られるように鎮座しています。この小祠は麓の富山県大山観光協会によって再建されたものですが、古くから有峰集落の人々によって信仰登山が行われていました。
江戸時代中期頃から平家の落人部落としても知られる有峰集落では、毎年旧暦6月15日(現在の7月下旬)の「岳の薬師祭」に於いて、15歳〜50歳の男達全員で薬師岳へ信仰登山を行っていました。もっとも、厳重な女人禁制の決まりがあり、女性の登拝は許されていませんでした。その際、鉄板を長さ12cm〜30cmくらいの大小様々な剣の形に切った「鉄剣」を山上の御堂に奉納して祈ったと言います。
「鉄剣」は次第にうず高くなり、「剣塚」を作ったと言います。
その後、登山者達がその鉄剣を持ち帰り、現在では鉄塚を目にすることはできません。深田久弥も日本百名山の書籍の中で「形の良い鉄剣を選んで持ち帰り文鎮として使っている。」と記載しています。
残念ながら高まる電力需要に応えるため有峰集落は、大正9年に廃村となります。昭和34年、電源開発のため和田川を堰き止めた有峰ダムが完成し、人造湖の有峰湖の湖底に沈んでしまったからです。
薬師岳山頂の薬師堂に祀られた大日如来
北アルプスの薬師岳の開山祭は、6月上旬の土曜日に行われます。富山市亀谷(大山)の播隆上人像公園で開かれ、 富山市大山上野の大川寺の住職が仏事を執り行い、北野市大山総合行政センター所長、富山南署長、富山市観光協会など山岳関係者など50名ほどが集まり、夏山登山の安全を祈願します。
開山祭に合わせて記念登山が行われ、ガラスの箱に納められた金色に輝く薬師如来像が、冬の間、大川寺で保管されていたものを、住職と富山県の観光課の職員、山岳関係者などによって薬師岳山頂の薬師堂に納められます。そして、閉山式の際、再び大川寺に戻されます。
薬師如来像は、たびたび盗難にあったため、山頂の薬師堂は鍵が架けられ、冬の間は大川寺で保管することになったという経緯があります。
薬師岳山頂近くから望む有峰湖
有峰ダムによって堰られた有峰湖。かつて、薬師岳信仰登山を行った人々が住んでいた有峰集落があった場所です。
薬師岳の圏谷(カール)群
薬師岳(標高2962m )の東面には、南から南稜カール、中央カール、金作谷カール、北カールと大規模な圏谷が四つ並んでいます。これは、立山の山崎カールを発見した山崎直方によって圏谷群と同定されたものです。その後、昭和20年(1945年)2月22日に国の天然記念物、昭和27年(1952年)3月29日に特別天然記念物に指定されました。ただし、北カールについては形が不明瞭なため、研究者によっては氷河地形として認めていない者も少なくありません。
南カールは、カール底の高度は2600m。カール内には植生に覆われた岩石氷河が存在しています。しかし、登山道から見る事は出来ません。裏銀座ルート烏帽子岳辺りから望む薬師岳の圏谷群
烏帽子岳北側の南沢岳から望む薬師岳圏谷群。北カールは、谷状になっていてカールとしての要件を十分に満たしていないように見えます。
薬師岳山頂の東側に形成された中央カール
中央カールは、薬師岳の山頂から東側眼下に望めます。カール底の高度は2700m、薬師岳の圏谷群の中で最大です。カール底には岩石氷河が存在しています。
カールの背後に赤牛岳から水晶岳、鷲羽岳と続く稜線があり、更にその背後に槍ヶ岳や穂高岳などが見えています。
薬師岳の圏谷群最北端にある金作谷カール
金作谷カールは、カール底の高度は2650mで、カール内にM字状岩屑地形が認められます。研究者により、最終氷河期後期のモレーン、或いは完新世のモレーンとする説。一方で、岩石氷河とする説に分れます。M字状岩屑地形の背後に氷河が発達するのに十分な空間が無いことから岩石氷河とする説が有力です。
写真は、薬師岳辺りから撮ったもので、左手から右手方向に連なる稜線のピークが北薬師岳です。
薬師岳山頂周辺の気温
山頂気温 | 1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
最高気温 | -10.4 |
-9.6 |
-5.4 |
3.3 |
8.5 |
11.5 |
14.7 |
16.5 |
11.5 |
5.6 |
-0.4 |
-6.9 |
平均気温 | -13.8 |
-13.2 |
-9.9 |
-4.0 |
2.3 |
8.0 |
9.3 |
10.5 |
6.2 |
-0.7 |
-6.4 |
-12.0 |
最低気温 | -19.4 |
-19.7 |
-16.0 |
-10.0 |
-4.2 |
1.1 |
5.3 |
6.0 |
2.0 |
-1.6 |
-8.8 |
-13.6 |
薬師岳へ登るための装備と服装
用具・装備 | 1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ツェルト | × |
× |
× |
× |
○ |
○ |
△ |
△ |
△ |
○ |
◎ |
× | ストック | △ |
△ |
△ |
△ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
△ |
スパッツ | ◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
△ |
× |
× |
× |
× |
× |
△ |
手袋 | ◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
× |
× |
△ |
○ |
◎ |
◎ |
サングラス | ◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
△ |
△ |
△ |
△ |
△ |
△ |
◎ |
軽アイゼン | × |
× |
× |
× |
△ |
△ |
× |
× |
× |
× |
× |
△ |
12本歯アイゼン | ◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
× |
× |
× |
× |
× |
× |
◎ |
ピッケル | ◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
× |
× |
× |
× |
× |
× |
◎ |
テント | ◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
△ |
× |
× |
× |
× |
× |
◎ |
◎ |
愛知大学山岳部の遭難事故
1968年の冬、愛知大学山岳部の部員13人が遭難死する事故が起きています。猛吹雪で下る尾根を間違い、東南稜を下ってしまった事が原因です。90名以上の捜索隊が結成され陸上及び空から捜索が行われましたが、豪雪のため救助には至りませんでした。3月23日になってようやく五遺体を発見、全ての遺体が発見されたのは10月14日になってからです。冬季に限らず、山頂部は砂礫に覆われて、遮るものは何も無く、濃霧時には道迷いが発生しやすいので注意が必要です。
折立登山口近くに家族や関係者などによって愛知大学山岳部員を供養する慰霊塔(十三重之塔)が建てられました。この事故を教訓に富山県では、昭和40年山岳警備隊を結成し、翌年には富山県登山届出条例の制定をすることとなります。
薬師岳山頂近くに建てられたケルン
このケルンは昭和39年10月、愛知大学並びに遭難学生遺族の協力により、二度と遭難が繰り返されぬよう祈りと願いを込めて建てられたものです。
愛知大学山岳部員を供養する慰霊塔(十三重之塔)
折立登山口から数分登った左手に建立されています。
画像一覧
太郎兵衛平に建つ太郎平小屋。この場所は、黒部五郎岳から双六岳、槍ヶ岳へ抜ける縦走路の起点であり、薬師岳を越えて立山室堂に抜ける起点でもあり、更には雲の平から水晶岳、鷲羽岳へ向かう起点でもあるので、夏のハイシーズンには多くの登山客で賑わいます。折立から太郎平小屋までのルートは、黒部五郎岳のページを参照してください。
薬師峠キャンプ場の公衆トイレ。大切な立山の自然を守り、快適に利用するために100円程度のチップが必要です。このトイレは、バイオ菌による土壌浄化循環方式を採用し、処理水を浄化して再利用する、自己完結型の自然環境に配慮したトイレです。
やがて、赤色の屋根が愛らしい薬師岳山荘に到着です。薬師岳山荘は、2010年に建て替えられ綺麗で近代的な設備になっています。ここから山頂まで50分ほどなので、初日にここまで登っておけば、翌朝の御来光を山頂で迎えることが出来ます。
避難小屋のある位置から南東方向を望と南東稜が見えます。昭和38年冬、愛知大学の学生達が誤って下ってしまった尾根です。標高差で300m ほど下った所で遺体で発見されています。遠景に水晶岳、雲ノ平の祖母岳、更にその奥に槍ヶ岳から穂高岳がくっきりと見えています。
薬師岳山頂。山頂に広がる露岩は、角閃岩を含んだ石英斑岩で形成されています。山頂からは北アルプスを一望する360度の大展望が広がります。富山平野から有峰湖、黒部川を挟んで赤牛岳、黒岳(水晶岳)、後立山連峰や笠ヶ岳、富士山も見えます。
北薬師岳から北カールの西壁に沿って北進し、2832m ピークを越えます。北カールは氷河地形としては不十分なため、圏谷として認めない研究者もいます。遠景に立山から剱岳、その左手に大日岳などがよく見えます。
U字状の溝を抜け、赤ザレた広い斜面になると黒部川によって深く刻まれたその先に赤牛岳がピンクがかった山頂を天に向けているのが印象的です。右手に稜線を辿るとギザギザの山頂を持つ水晶岳(黒岳)が存在感を持って聳えています。
スゴノ頭から望む薬師岳。写真には写っていませんが、右下に赤い屋根のスゴ乗越小屋が見えます。金作谷カールを抱いた主峰とその右手に荒々しい岩璧を持つ北薬師岳が男性的でダイナミックな姿として捉えることが出来ます。
五色ヶ原を望遠で撮影。右手側に傾斜した広い平原の中に小さく五色ヶ原山荘が見えています。この角度から見る立山は、立山連峰の盟主というに相応しい勇壮な姿で聳えています。立山室堂から見るそれとはだいぶ違います。
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折立〜薬師岳〜五色ヶ原縦走ルート地図
折立〜薬師岳〜五色ヶ原縦走ルート詳細情報
ルート | 9月1日 折立(標高1352m)⇒太郎平小屋(標高2330m)⇒薬師峠キャンプ場(標高2294m)⇒薬師平ケルン(標高2479m)⇒薬師岳山荘(標高2701m)⇒薬師岳(標高2926m)⇒北薬師岳(標高2900m)⇒間山(標高2585m)⇒スゴ乗越小屋(標高2286m)⇒スゴ乗越(標高2180m)⇒越中沢岳(標高2591m)⇒越中沢乗越(標高2356m)⇒鳶山(標高2616m)⇒五色ヶ原山荘(標高2490m)⇒ザラ峠(標高2348m)⇒獅子岳(標高2741m)⇒鬼岳(標高2750m)⇒龍王岳(標高2872m)⇒浄土山(標高2831m)⇒室堂山(標高2668m)⇒立山室堂バスターミナル(標高2450m) |
---|---|
コースタイム | 折立⇒太郎平小屋:3時間15分、太郎平小屋⇒薬師岳:2時間40分、薬師岳⇒スゴ乗越小屋:2時間20分、スゴ乗越小屋⇒五色ヶ原山荘:5時間、五色ヶ原山荘⇒立山室堂:3時間50分。合計17時間5分。 |
駐車場 | 折立駐車場 バス停前の駐車場は収容台数が少ない。200m ほど離れた広場に大駐車場あり 扇沢駐車場の詳細 |
トイレ | 折立登山口、太郎平小屋、薬師峠キャンプ場、薬師岳山荘、スゴ乗越小屋、五色ヶ原山荘、立山室堂 |
核心部 | 薬師岳と北薬師岳の狭い稜線 |
難易度 | [登山道(一般道)を10段階で表示 特に鎖場の岩登り] 2.5 |
標高差 | 距離 27.3km 最大標高差 1568m 平均斜度 全体:3.9% 上り:20.1% 下り:16.3% 獲得標高 上り:2971m 下り:1895m |
山小屋 | 太郎平小屋 薬師岳山荘 スゴ乗越小屋 五色ヶ原山荘 |
登山口までのアクセス | 扇沢までのアクセスの詳細はこちら |
次はどこの山へ行こうかな。行きたい山がすぐに見つかる。
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